彼女たちは男と靴をこんな風に見ている。「私たちが気になるメンズの靴」とは

靴に気遣い、靴にこだわる男性たちは、女性たちの目にどのように映っているのか。靴に関して一家言ある、各界で活躍する方々を緊急招集、日頃感じている男性の靴に関するさまざまを自由に語っていただいた。


左から、森 香利(伊勢丹新宿店メンズ館スタイリスト)、丸山尚弓(メンズファッションライター)、LOVE(ミュージシャン)、森田美里(シューズデザイナー)、河村真菜(靴磨き職人)


──以前、本日ご参加されている丸山さんから、紳士靴の世界は女性にないジャンルだとお聞きしたことがあったのですが、まず、男の靴ってこんなところが変だなと思ったことはありますか。

LOVE 例えばヒールの靴は、女性にとってすごく気合が入ったり、美しく見せてくれるものだったりするんですけど、男性はなんで気合入れるときに尖った靴をわざわざ履くのかなと。ミュージシャンでももう履いていないのに。最近はビジュアル系でもスニーカーで成立するし、むしろそのほうがかっこよく見えるのに、まだ尖ってる靴履いてるのを見たときが、疑問を感じる瞬間です。

──確かに、街中でもそういう靴を履いている人、まだまだ多く目にしますね。

丸山 階段でつまずいてつま先が折れてしまっている人とかいますよね。なぜそういう靴を履くのかなと考えたことあるんですけど、最近よく展示会や店頭に立ったりするのですが、皆さん明らかに大きい足のサイズをおっしゃるのです。それだと合わないと申し上げるのですが、それでも大きいサイズを主張されます。そこで、これは足を大きく見せたいのかなと思ったんです。つま先が長いと足は大きく見えます。
河村 店舗でオーダーシューズを扱っていて、お客様の足を実際に計測するので、(正しい足のサイズが)分かるんです。なのに1.5センチぐらい大きめをおっしゃる。ウェルトの仕様などで大きく見えるようにしますかと一応申し上げると、大抵皆さん「はい」とおっしゃるので、大きめにしたいという心理はあると思います。
丸山 その感覚って日本独特だと思います。海外だと自分に合
った靴を履いていることがかっこいいという感覚が強い。あと、男性だったらちょっと大きめのほうが男らしいという感じが、海外にもあるかもしれませんが、日本では特に強いのかもと感じる瞬間がありますね。
LOVE サイズが小さい大きいじゃなくて、本当に好きな靴を、ちゃんと手入れして履いてるほうが大事じゃないですか。ぼろぼろでも愛着が出てる靴はかっこよく見える。
丸山 そうですよね。私もチャールズ・パッチ(英国チャールズ皇太子の靴に見られた、アッパーにつぎ当てする修理のこと)が当たってるような靴を履いてる男性は素敵だと思いますね。靴って男性にとってパートナー的なところがある。だから靴を大切に履いてる姿は、もしかしたら女性への態度にも重ねて見られるところがある。
LOVE 靴を大事にしてる男性は女性も大事にするみたいなこと?
そうかもしれない。
河村 でも、愛情かけ過ぎな方も結構多くて、自分でケアされる方は、クリームにしろ、ワックスにしろ、乗せ過ぎな方がすごく多い。愛情かけ過ぎて逆に靴に良くなかったりすることもあるので。それは……ゆがんだ愛ですね。

高くていい靴は悪くない。

LOVE ギターで言うと私はアコギ(アコースティックギター)弾きなんですけど、アコギはちゃんと鳴らしていないと古かろうが新しかろうが、いい音にならないんです。あと、リペアするお金で新しいギターが買えちゃう場合もあるんですが、靴もそうだと思いますが、使ってなんぼじゃないですか。靴は歩いてなんぼ、ギターは弾いてなんぼで、ライブで持ち歩いてたら傷も付くし、でもそれが愛着になったり、リペアをして、手入れをして、拭いて、オイルを塗っていくうちに、自分にしか出せないものになっていく。そう思うと、ちょっと男性脳というか、車とか靴とか、男性がギアにかける気持ちは、私、ちょっと分かります。
森田 あと、靴ってシーズンがないじゃないですか。1足いいものがあれば、大切にすればするほど長く使える。私自身、30年選手の靴も持っているので。だから、いい靴を買って全然いいと思うんですね。メンテナンスすればするほど長く履けるので、リペアできるのだったら、私は高い靴は高くないと思います。あと、私はブランドの側にいますが、このブランドを着たり履いたりするためにがんばって働くと考える方もいらっしゃるんです。これ買ったから頑張ろうとか、これ買うために頑張ろうというお客さまを、私はリスペクトしますね。
丸山 私も高い靴を求める男性は嫌いではないです。一部のお金があり余った人は置いておくとしても、普通にお仕事していて高い靴を買われる人というのはブランドへの愛情だったり、それを履いたときの自分のあり方みたいなビジョンが見えている方かなと思っていて。その靴を履くことで自分の人生を軌道に乗せていったり、結構しっかりとしたバックボーンのある方が多いんじゃないかなって。この靴を履きたいという気持ちが表れている、そういう履き方だったらいいかなと。靴に履かれてる感じがしない。
河村 靴磨きの観点で言うと、自己投資で高いもの買うのは全然いいと思いますが、買ったら終わりという方もらっしゃるので、釣った魚になんとか、ではないですが、ケアは毎日しなくちゃいけないんです。1日15秒とかでいい。たった15秒の習慣を付けられない人は、その高い靴を買う権利があるのかなと私は思ってしまいます。厳しいけどその通りかも。
丸山 それと、お手入れする所や買う所も行きつけがある人はいいですよね。

──森さんのところに、相談に来るお客さまは多いんじゃないですか。

そうですね。こだわりが強い方も多くて、靴よりも自分の足を知ろうとされる方がいらっしゃることもあります。人生相談しに来たついでに靴を購入されるような感じの方も中にはいらっしゃいますね。
森田 人生と靴の深い関係?

──それって逆の見方をすると、靴を選ぶということは、男性にとって精神的なことや哲学的なこととつながりやすいのかな。

いい靴は時代を超える?

憧れのブランドを求めていらっしゃって、何回も試着して納得できずご購入に至らない場合もあります。でもそれをお手伝いできるのはすごくありがたいのです。例えば自分史上初めて高い靴を買いに来た、それに対していい思いで帰っていただきたい。ケアなども含めて一緒に付き添えるような存在でありたいというのはやっぱりあります。
LOVE 人生のどのタイミングで人間は靴を買うのかというデータがあったら、見てみたいですね。
印象深かったのは、結婚式のために履く靴を選びに来てる方がいらっしゃって。結婚式用と二次会用の靴を、ご夫婦で買いに来ていて。その奥さんと初めて一緒に買う靴だから、付き添える靴で、普段履ける靴がいいんだよと。

──そういった男性の靴にまつわるエピソードって、何かありますか?

河村 私たちのお店にいらっしゃるお客さまは年齢層が幅広いんですけど、ある日70歳代ぐらいの方がすごく古い靴をお持ちになったんですね。それは、その方の亡くなられたお父さまの靴だったんです。もうぼろぼろだったんですけどどうしても履きたいということで、全部修理しました。さっき話題になったパッチを貼ったり、サイズが少し合わなかったので、インソールを入れたりして一応履けるようにしたんです。紳士靴は基本的にシンプルなものが多いので、結構どのデザインも100年ぐらい前からあるものじゃないですか。そんな風に50年や60年
も前のものでも履くことができるというのをその老紳士に教えてもらって、私にはそれがすごく感動的でしたね。
森田 私も、本当に似たエピソードなんですけど、うちの兄が、祖父が亡くなったときの形見分けで靴持って帰ったんです。そんなにものを持ってる祖父じゃなかったのですがたまたま足のサイズが同じでした。それをこの前、違う母方の祖母が亡くなったときにお葬式に履いて来てたんです。ずっと持ってたんだ、一緒にずっと寄り添ってたんだなって、私泣きそうになっちゃったんですけど。さっきも言ってましたけど、靴って時代関係なく、使えるのだなって、その時再認識しました。

──お二人ともすごい現場を見ていますね。そういうエピソードを聞くと、ますます靴を大事にしようと思います。みなさん、本日は素敵なお話をありがとうございました。


なんで気合い入れるときに尖った靴をわざわざ履くのかな。



LOVE(ミュージシャン)

シンガーソングライター。大阪府出身。バンド活動を経て2007年に「過ちのサニー」でソロデビュー。オルタナティブロックや70年代英米のフォークをベースとした音楽を志向している。無類の革好き&ブーツ好きという。


靴を大切に履いている姿は、女性への態度と重なるところがある。
手入れもせずに新調しちゃう男性はもしかしたら……。


丸山尚弓(メンズファッションライター)

ネットメディアやSNSを中心に「美しすぎるメンズファッションライター」として活動。堪能な英語を駆使して海外の事情にも精通している。スペインのシューズブランド『カルミーナ』のアンバサダーも務めている。



靴にはシーズンがないので、ずっと長く使えるじゃないですか。
だからいいものを買うのは賛成です。



森田美里(シューズデザイナー)

<MIHARAYASUHIRO/ミハラヤスヒロ>シューズデザイナー。テキスタイルデザイナーとして活動後、イタリアでシューズデザイナーに転身。以来約15年靴のデザインに関わる。素材からスタイルまで造詣が深い。


靴磨きやケアが盛り上がっていますが、
愛情をかけすぎて、逆に靴に良くなかったりすることもあります。
ゆがんだ愛、ですね。



河村真菜(靴磨き職人)

今年7月に東京のリファーレ自由が丘内にオープンした靴磨き店『GAKU PLUS TOKYO』オーナー。イタリアの女性靴磨き職人の存在に触発されて、名古屋の靴磨き職人・佐藤我久氏に弟子入り。東京店を任される存在に。


何回も試着して納得できずご購入に至らない場合もあります。
でもそれをお手伝いできることはすごくありがたいのです。
 

森 香利(伊勢丹新宿店メンズ館スタイリスト)

伊勢丹新宿店メンズ館地下1階の雑貨担当。その前は約4年間紳士靴の売場を担当し、現在は靴売場も含む地下1階全体を受け持っている。膨大な種類を誇る、イセタンメンズの靴に精通するスタッフのひとり。



Photo:Kenta Yoshizawa
Hair&Make-up(LOVE):Daiji Hara(RITZ)
Text:Yukihiro Sugawara

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