2016.03.01 update

【トレンド・リポート】Men's Fashion Forecast|ピッティから!ミラノコレから!パリコレから!2016年春のトレンド座談会(前編)

年2回、イタリアのフィレンツェを舞台に開催される「ピッティ・イマージネ・ウオモ」。この世界最大級のメンズファッション展示会を中心に、ランウェイ動向も交えて、3人のプロが語るトレンド・リポート。

左/山浦 勇樹(三越伊勢丹 ビジネスクロージング バイヤー)、中/高田 喜代彦(三越伊勢丹研究所 紳士ファッションディレクター)、右/森岡 弘(グローブ代表取締役/ファッションディレクター&スタイリスト)

Tシャツもゆるーく着こなす

リラックスしたムードが引き続きトレンドに

――今の全体的な傾向をどうとらえていますか?

高田
ピッティでは近年、"リラックス"や"コンフォート"といった言葉に代表されるように、テーラードでもジャージ素材やニット素材を使ったものが増えて、ドレスとカジュアルの境目が曖昧になってきています。
山浦
確かに、カジュアルでゆるい感覚が全体のムードとしてありますよね。そんななか今シーズンは、ピッティ協会自体が『THAT'S PITTI COLOR!』をテーマに掲げていたこともあって、私は"色"が気になりました。

イタリアの老舗パンツブランド、<ジェルマーノ>のブースではカラーパンツを大々的にフィーチャー。鮮やかなブライトカラーを打ち出した。

森岡
ブライトカラーが多いですよね。カラーパンツは相変わらず人気だし、靴やシャツ、ニットウェアなどでも豊富です。
高田
フレッシュな印象を求めて、"カラー・オン・カラー"のコーディネートを打ち出すブランドもいくつかありました。
山浦
でも、圧倒的に多いのはブルーでしたね。<タリアトーレ>や<L.B.M.1911>、<ロダ>といった、我々がベンチマークしているトレンドセッターは、軒並みメインディスプレイがネイビーやブルーを基調にしたスタイルでした。


ピッティを代表するトレンドセッターのひとつである<タリアトーレ>は、ブースのメインカラーもブルーにし、商品だけでなく見せ方にいたるまで徹底。

来場者の間でも、ネイビーやブルーを基調にしたコーディネートが拡大中。

スポーティなテーラードスタイルが得意な<L.B.M.1911>のブースでも、メインディスプレイはブルーからネイビーのトーン。

――でも、ブルーはいわば定番色ですよね?

山浦
そうなんです。だから、店頭では、トーン・オン・トーンで合わせるとかきちんとしたファッションとして解釈し、提案することが大事だと思っています。
森岡
デニムだけではなく、いろんな素材が登場している。ブルーといっても幅が広いので、トーン・オン・トーンで合わせるのも、そんなに難しくはないと思いますよ。
高田 もうひとつ色でいうと、白やベージュも注目ですね。これも"リラックス"の流れから出てきた傾向で、ナチュラル館のあるリネン素材を中心に広がっています。
山浦
ベージュは挿し色としてではなく、ジャケットなどに用いられる主役級の色になった印象があります。


――継続的なトレンドを教えてください。

高田
昨年の秋冬シーズンに、メンズ館でもミリタリーやワークウェアをフィーチャーしましたが、機能主義、実用主義の流れは依然として強いですね。これはランウェイでも見られた傾向です。クリーンなカットと上質な素材づかいがポイントになっています。
森岡 ミリタリーのトレンドではサファリジャケットやMA-1が象徴的なアイテムですが、私が大人の男性におすすめしたいのはM-65型フィールドジャケット。これをテーラードのジャケットと同じように、上質なシャツやパンツにコーディネートするとすごく素敵に見えますよ。

今やパリコレ常連ブランドの<カラー>では先シーズンに引き続き、ミリタリーモチーフのアイテムを発表。洗練されたアプローチで会場を沸かせた。

――リゾート風のスタイルで新しい兆候はありますか?

高田
昨年、レディスで白×黒のパンツや太いボーダーが流行りましたが、こういったマリンのトレンドがメンズにも波及してきています。
山浦 マリンは店頭でも積極的におすすめしていきたいですね。今季は太めのストライプジャケットを中心に、清涼感のあるブルートンを用意しました。思い切ってショートパンツを合わせるのもお洒落だと思います。
高田 あとはエスニックでしょう。少し酸味の効いたアースカラーにフラワープリントを施したものが主流ですが、エキゾチックなストライプやジャガード、プリントものを組み合わせたテーラードカジュアルが目立っていました。
山浦 マヤ文明をテーマにした<エルネスト>もその流れでしょう。ピッティの出展ブランドでも、ファッション寄りのアプローチをするところでその傾向が強かったです。日本人が着こなすには少々難しいと思いますが、柄を小さめにするとか、色づかいを参考にするとか、そのエッセンスを取り入れるだけでも新鮮な気持ちを楽しめると思います。

ピッティでエスニックなコレクションを披露したのが新鋭ブランド<エルネスト>。南米のマヤ文明から着想を得た色柄が並んでいた。

――では大きく変わった点は見受けられましたか?

高田
ピッティに関しては、さほど変わった感じはしませんでした。昨年の同時期からのマイナーチェンジといった印象です。今は尖ったものや派手なものよりも、実用的なものを選んでクオリティにここだわる、といったスタンスの方が主流なんじゃないでしょうか。

ピッティとランウェイで見出したこれからの注目トレンドとは?

山浦
大きな流れではありませんが、これまでカジュアルなテーラードのトレンドを牽引してきた<ラルディーニ>や<L.B.M.1911>などのブランドが、本来のフルキャンバスのかっちりとしたスーツに力を入れ始めているのは、逆に新しい潮流なのかなと思って注目しています。

パンクロックとテーラード、ストリートなどのカルチャーをハイパーミックスしながら独特の気品が漂うコレクションを披露した<ドリス ヴァン ノッテン>。

――ランウェイの動きはいかがですか?

高田
ピッティとの共通点も多いですよ。ミラノやパリのファッションウィークに参加するブランドも、今はリアルクローズに近いものを発表しています。しいていうなら、リアルを超えた新しいリアルをつくろうとしている、といった印象を受けています。
森岡
ミリタリー調のスタイルも、目立っていましたしね。
高田
両者の違いを挙げるとすれば、ランウェイのほうがユースカルチャーを意識している点です。例えば昨年、カニエ・ウエストと<アディダス>がコラボした「YEEZY BOOST 750」が爆発的にヒットしましたが、若い世代のムーヴメントがハイファッションの世界にどんどん入ってきている。ストリート&スポーツの流れも強いですね。

ヴァレンティノ(左)は、南米のムードが漂うエスニックなスタイルが登場。また、<ミッソーニ>もインドへの旅を通じて生じた感情の変容をコレクションで表現した。

森岡
若い世代といえば、ジェンダーレスも外せません。スリーブレスのアウター、ロングニット、アニマル柄はレディスのトレンドが起点ですから。
山浦
最近はテクノロジーの進化によって素材に新しい付加価値をもたせたり、携行性や利便性をデザインに反映させたりと、服自体がギア化する動きもありますよね。
高田
でもそうすると、それとは正反対にある、人の手の温もりや民族の文化への憧れが強まって、エスニックやクラフトワークに対して価値を求めるデザイナーが出てくる。まさに時代の気分を表していると思いますよ。

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