タイクリップ誕生の背景とは


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Tie clip

タイクリップ【tie clip】ネクタイを固定させるためのアクセサリー。さまざまな形状のものがあるが、主流な形状はバネと小さな刻みでタイとシャツとを噛んで固定させる「タイクリップ」と呼ばれているもの。
【Q&A】改めて知りたいタイクリップ・タイバーの使い方と選び方


タイをシャツに留めるアイテム、タイクリップやタイバーそもそもの起源は19世紀中期のヨーロッパに遡ると言われています。

当時のタイは、形状・結び方共に今日よりも遥かに多くの種類がありました。しかも結んだ後に形状を維持するのに大変難儀しました。生地をバイヤスに用いる、つまり織られた向きに対し斜めに用いて縫合するのを通じ弛みや歪みを防ぐノウハウが、タイにはまだ取り入れられていなかったからです。


19世紀前半のヨーロッパ生粋のダンディであったボー・ブランメルは、タイの結び目の形状や膨らみが僅かでも不満だと何枚も交換し、満足するまで外出できなかったそうです。彼の用いていたものが麻製でノリが掛かったものだっただけでなく、生地がまだバイヤス取りではなかったことも、その原因の一つかもしれません。すなわちタイをシャツに留めるアイテムは、結んだ際にその形状の保つアイテムとして考案されたわけです。

より一般的になったのは1930年代辺りから。これは、日常身に着けるタイが、今日圧倒的に主流の結び下げ形状=フォア・イン・ハンドタイに集約されると共に、ウェストコート(ベスト)を着用しないスーツスタイルも認知され始める時期とほぼ重なります。恐らくタイをそれで面的にしっかり固定できなくなったからでしょう。
 
 
文=飯野 高広
いいの たかひろ●大学卒業後大手鉄鋼メーカーに勤務したのち、服飾ジャーナリスト・研究家として独立。紳士靴やスーツなど男性の服飾品全般を執筆領域とし、ビジネスマン経験を生かした視点で論じる。また専門学校で近現代ファッション史の講義を受け持つと共に、テレビ番組への出演・総合監修を行うなど、メンズファッション全般の知識箱的存在として活躍中。著書には、『紳士靴を嗜む:はじめの一歩から極めるまで』『紳士服を嗜む:身体と心に合う一着を選ぶ』(朝日新聞出版)『大切な靴と長くつきあうための靴磨き・手入れがよくわかる本』(池田書店)がある。





Photo:ISETAN MEN'S net
Text:Takahiro Iino

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