2015.08.11 update

【インタビュー】<LID TAILOR>根本 修|修業時代をともに乗り越えた戦友

当連載第一回を飾るのはリッドテーラーの根本修。根本が対談相手に選んだのは、20代の苦楽をともにしたユニオンワークスの櫻井博喜だ。ユニオンワークスといえば従来の靴修理のイメージを小気味よいほど裏切り、若者が憧れる職業に押し上げた立役者であり、櫻井はその右腕である。ビジネスクロージングの羽鳥幸彦が司会を務める。

左/根本修 <リッドテーラー>店主、中/櫻井博喜 <ユニオンワークス>工場長、右/羽鳥幸彦 メイド トゥ メジャー スタイリスト


20代は手を動かしてなんぼ

羽鳥 おふたりは20年来のお付き合いということですが、そもそものきっかけを教えていただけますか。
根本 ぼくの中学の後輩に時計修理の職人がいるんですが、ボストンテーラー(根本さんの修業先)にふらりとシャツをつくりにきたんです。ぼくが働いていることを知らなかったんだから、偶然とはほんとうに面白いものです。ネットワークの広い男で、ユニオンワークスはかれの紹介でした。ちょっとすごい靴修理の店があるから一緒にいこうって。中川(一康。ユニオンワークス代表)さんが忙しくなってはじめて雇ったのが櫻井さん。同い年だったのもあってすぐ意気投合しました。仕事終わりにユニオンワークスへいって仕事の邪魔をするのが常でしたね。で、お互い酒が呑めないんで…。
羽鳥 根本さんはともかく、櫻井さんの風体でそれは意外な。
櫻井 (根本さんとともに苦笑しながら)そうなんです。
根本 その後輩も連れてご飯を食べにいくんですが、手づくりが見直されてきた時代とはいえ、そうそう近しい境遇の人間がいるわけじゃない。職人を志す同世代として、なんでもさらけ出したものです。
櫻井 夢や愚痴を延々語り合いましたね。
根本 ビルを一棟借りしてフロアごとにスーツ、靴、時計の店をやるぞって夜な夜な気炎をあげていた。
櫻井 青臭いけど、そういうのは必要ですよね。
根本 でもたまに食事をするくらいで、じつはほとんど遊んでいないんですよね。ぼくらは自分でいうのもなんだけど、手を動かしてなんぼの時代をとことんストイックに過ごしたと思う。


羽鳥 ツーリングが共通の趣味とうかがっていますが。
根本 けっきょく数えるほどしかいっていないですが、夜中に集合して、気づいたら山梨だったというのは忘れられない思い出ですね。とっても気持ちよくて、走りすぎた。
櫻井 買ったばかりのBSA(=バーミンガム・スモール・アームズ。コレクター垂涎のビンテージバイク)はコンディションが不安で、いま考えても恐ろしいツーリングでした。
羽鳥 最近はどうですか。
根本 アトリエのディスプレイ用にベスパは残しているけれど、ふたりで走ったハーレーのアイアンスポーツは開業資金で売っちゃったから、とんとご無沙汰しています。櫻井さんも処分しちゃったんだって?
櫻井 100万かけて直らなかったので、泣く泣く。まぁ、40すぎてまたあんまり遊ぶ余裕もありませんしね。子どもが小さいんで、休みの日はずっと一緒。家で音楽を聴く時間すらなくなりましたが、これはこれで悪くない。
根本 子育てはいまならではの楽しみだからね。ぼくのところは上が小3だけど、いまだに一緒に寝ますもん。だから休みの日の仕事の電話はとてもテンションが下がります。櫻井 ふたりしてイクメンですね(笑)


クオリティは大前提、格好よくないと

羽鳥 われわれが根本さんに一目置いているのは、たしかなクオリティは言わずもがなで、スタイルがあるところです。単純に格好いい。
根本 ありがとうございます。ボストンを修業先に選んだのもそこを目指したから。ほんとうにクールなテーラーでした。そして、ぼくのすこし上の先輩がとても粋だった。ユニオンの中川さんにもそうとう影響を受けました。たとえば店づくり。すでに都内に何店舗も構える大社長ですが、自分の世界観は業者に頼んだら薄まってしまうって、いまでも自分で什器を買いつけて内装までやっちゃいますからね。ぼくも店の壁は塗りました。
羽鳥 根本さんも背伸びっぷりでは負けていなかったようですね。山本(祐平。ボストンクラブの先輩で、テーラーケイドの代表)さんにうかがいましたが、ボストンクラブの面接は紫のスーツにタブカラーだったとか。まるでポール・ウェラーだったっていっていました(笑)。
根本 一張羅ですね。


櫻井 ツーリングもそうでしたよ。フルフェイスのつなぎじゃない。バブアーとか着ちゃうわけです。都内ならともかく、山梨の山奥じゃ誰もみていないんだから、自己満足のきわみです。だけど、そういうの、大事なんです。
根本 近ごろは自分なりの世界観をぶれずにもち続けている人が少なくなっている気がします。
羽鳥 そういうことをいうから、若手が定着しない(笑)。
根本 そうなんです。厳しすぎるみたい。
櫻井 だからここのところは、ぼくも根本さんも怒らないようにしています(笑)。


羽鳥 職人人生も中盤にさしかかっています。後半戦はどのように戦うおつもりですか。
根本 ぼくの場合は独立の道を選んだわけだけど、櫻井さんが女房的な立場で中川さんをもり立てている関係は素直にうらやましい。
だからたまに考えます。もし祐平さんとあのまま一緒にいたら、どうなっていたんだろうって。それはもう叶わぬ思いだから、いまは自分でそういうチームがつくりたい。
羽鳥 で、目指すのはやっぱり…。
根本 ええ。ユニオンワークスやボストンですね。ほんとうにモノをつくるのが好きな人間で、手が利いて、だけどそれだけじゃなくて、趣味でもなんでもいい、これだけは人に負けないってこだわりもちゃんともっている。そんな仲間が集まったら最強ですよ。


羽鳥 ところで、お互い、つくったり、つくられたりというのは?
根本 ぼくは修理、お願いしていますよ。今日ももってきた。
櫻井 (気まずそうに)一日中工場だし、休みの日は家族サービスだし、スーツを着るのは子どものイベントのときくらいなんで、吊るしの一着しかありません。あ、タイはリッドです!
根本 着る機会がないんだからしょうがないですよ。だけどいずれスーツをとなったとき、ほかでつくったら怒るけど(笑)。
櫻井 (大きな身体を縮こめながら)それはもう。


根本 修<リッドテーラー>店主
テーラーやモデリストとして10年以上のキャリアを積んだ根本は、独立を模索していたころ、英国「アンダーソン&シェパード」を訪ねた。着用者の肩傾斜に近いショルダーラインを備える、いわゆるソフトテーラーリングのスタイルに触れ、自身の服作りへの思いを強くしたそう。そのスタイルが好みとしつつも、幅広い知識を持ち「様々な要求に応えられるテーラー」を目指す彼が仕立てるスーツは、“英国由来の普遍性”を備えている。


ユニオンワークス
街場の靴修理の店で研鑽を積んだ中川一康が1994年、雑居ビルの一室でスタート。ヨーロッパの職人顔負けの技量、現地から取り寄せた豊富な純正パーツを武器としたユニオンワークスはまたたく間に目の肥えた男性の心をつかんだ。徹底的につくり込んだ、初の路面店である青山店のオープンでそのポジションは決定的なものに。現在は銀座、新宿へも出店を果たし、展開店舗数を5に伸ばした。また、オリジナルの部材開発やトリッカーズ、シュナイダーブーツとのコラボレーションも盛ん。
http://www.union-works.co.jp/

Text:Takegawa Kei
Photo:Fujii Taku

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