2020.02.12 update

【特集】セットアップスーツに合わせる”大人のTシャツ”ができるまで

それは今どきのセットアップスーツをビジネススタイルで着るためのTシャツ。「ビジネスシーンに適したドレスTシャツが作りたい」というメンズ館7階を担当するバイヤーの発想からスタートし、2つのブランドの仲を取り持った。デザインや素材に加え、生産背景にまでこだわりを持つクリエイターとの出会いがあったからこそ、成し得たプロジェクトが今春、遂に結実する。


<アーミー>デザイナーの河内あゆみさん(左)と伊勢丹メンズ館7階=メンズオーセンティック・バイヤーの植松義雄(右)


バイヤーが思い描いたのは、セットアップスーツに合わせる上質なTシャツ


「<MACKINTOSH PHILOSOPHY/マッキントッシュ フィロソフィー>のトロッタースーツはもちろん、ブランドを限らず、今どきの機能性素材セットアップスーツに合わせられるTシャツを作りたいと思っていました。ジャージーのセットアップに、布帛のドレスシャツ、シルクのネクタイって、どう考えても似合わないですから」。


ここ数年、オフィススタイルのカジュアル化が加速度的に進み、機能性素材のセットアップスーツを愛用する人が増えている。2020年も、この傾向はさらに増加しそうだ。しかし担当バイヤーの植松がいうように、この手のストレッチ素材やジャージーのスーツ&ジャケットに相応しいTシャツを見つけるのは案外難しいのだ。

機能性素材のスーツには、これまでウールのスーツに合わせてきたドレスシャツやシルクのタイはいまひとつしっくり馴染まない。Tシャツも洗いざらしのラギッドなコットンでは、ビジネススタイルとしてはラフ過ぎてしまう。太リブのロックネックはテーラード型のジャケットに似合わないし…、Tシャツというカジュアルなアイテムも、ドレス顔をつくるには、やはり専門家に相談するべきだと考えた。


ならばと植松が思いついたのは、紳士肌着バイヤー時代に発掘した<armi/アーミー>だった。白いTシャツに特化して、メイド・イン・ジャパンにこだわり、素材も工場もひとつずつデザイナー自ら訪ね歩いて吟味している<アーミー>なら、英国クラシックの伝統とものづくりの精神をもつ<マッキントッシュ フィロソフィー>ときっと響き合う。すべてはここから始まった。


デザイナーが目指したのはスローでエッセンシャルなモノづくり



<アーミー>のデザイナー・河内あゆみさんは、若者向けアパレルブランドでデザイナーを務めていた頃から、大量生産・大量消費されるファッションに疑問を持っていたという。ほどなく退社しモラトリアム期間をヨーロッパを旅して過ごしていた時、自国のクラフツマンシップと伝統を守りながら誠実にものづくりと向き合う小規模なメーカーと出会った。それまでの自分とは真逆のスタンスでファッションと向き合う仕事に、自分がやりたかったことはこれだと気づく。

「ファストファッション全盛の時代でした。デザイナーとはいえ、海を渡った先のどんな工場で、どんな人が作っているのかさえわからない。出来上がった商品を見るしかしないことは、無責任ではないかとさえ思ったんです。あるとき海外の生産工場を視察する機会があったのですが、そこではまだ幼い少女が安い賃金で住み込みで働いていたことにはショックを受けました。今でこそフェアトレードやトレーサビリティ、サステナブルといったキーワードが当たり前ですが、当時はまだそんな考え方も環境もなかったのです」。

帰国後は誠実なものづくりと向き合える国内メーカーに学び、やがて自身のブランドを立ち上げた。生産者がわかる国内背景を選び、工場とは直にやりとりすることでクオリティを担保、適正価格で生産することで還元する。スローかつエッセンシャルなモノづくりを推し進めるため、今も彼女はひとりで奮闘している。ブランド名の<アーミー>とは河内さんの愛称だ。自分のすべてを表現したいという思いが込められているのだろう。


セットアップスーツのベースとなる上質な白米のような「identiT」


植松が<アーミー>と出会ったのは、国内の合同展示会だ。白Tシャツに特化したブランドという潔さに惹かれたという。コレクションは「スマート」「マザー」「ハードマン」という3つのモデルで、糸の原産地、紡績工場、生地の編み立てと染色加工場、縫製工場まで、それぞれが適材適所の生産背景をもち、しかもそのすべてを情報開示していることに驚かされた。パッケージには再生ボール紙を使い、パッケージがそのまま定形外郵便物として投函できる機能的でモダンなデザインも秀逸だ。



「河内さんには、スーツのインナーとして快適でかっこいいTシャツを一緒に考えましょうとお願いしました。もちろん今回も糸の産地・紡績、編み立て、縫製まですべてイチから吟味しています。光沢感とシャカ感あるスーツの素材に合わせられて、快適な着心地であることは外せません。デザインもイチから考えたんです。シャツは裾をアウトして着ることを想定するので後ろ裾をラウンドさせ、少し覗くぐらいの着丈にしたのも、今回のための特別な仕様です」。

モデル名に「ドレス」と名付けられた今回の<マッキントッシュ フィロソフィー>×<アーミー>のコラボTシャツは2型リリースされる。セットインラグランのタイプは肩にハギがないため縫製部がゴロつかず、腕の回りも良好。植松がこだわった後ろ裾も特徴的だ。もう一型、ポケットクルーネックのタイプは、<アーミー>の定番人気モデル「ハードマン」の型に「ドレス」のための特別な素材を乗せた。

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  • <マッキントッシュ フィロソフィー×アーミー>
  • Tシャツ 12,100円
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  • <マッキントッシュ フィロソフィー×アーミー>
  • Tシャツ 12,100円

「植松さんに提案した糸はインドの超長綿マハバーラ。手摘み収穫されるので油分が残り、美しい光沢としなやかな手触りが特徴です。これを100番手の双糸に紡績してからハイゲージスムースに編み立てて、シルケット加工を施しています。薄手ですが透けにくく、伸縮性も高いので着心地も良いものが出来ました。工場も会社名も、すべてリーフレットに明記してあります」。

<アーミー>のWEBサイトのトップにはこう書かれている。

  • 「衣・食・住」生活の基盤となる3大要素の中で「衣」は人間だけが行う行為。
    これは「衣」が知性を伴う行為であることを意味します。

    普段何気なく着ているそのTシャツ
    「あなたは何の為に服を着ますか?」

    無意識を意識に変えよう。その気づきが未来を変える。
    armiは考える服=identi-Tを提案いたします。

インタビュー中に「Tシャツってお米みたいなものだと思うんです」と笑顔で話す彼女の服飾意識こそ、植松が「信頼に値する」と評する点だ。セットアップスーツが未来のビジネススタイルのスタンダードになる時代、ベースとなる白Tシャツには、こんなにも誠実な白米を選びたいのだ。

Photo:Tatsuya Ozawa
Text:Yasuyuki Ikeda

*価格はすべて、税込です。

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