2019.10.26 update

【特集|インタビュー】新しいカッコよさとは何か。新ブランド<TEXT/テクスト>が切り拓く、ファッションの新地平

日本ではいち早く”トレーサビリティ”をファッションに持ち込んだデザイナー石川俊介氏。2003年に<MARKA/マーカ>を立ち上げ、ハイエンドラインである<MARKAWARE/マーカウェア>を経て、この秋冬から第3のブランドとなる<TEXT/テクスト>を立ち上げる。これは昨今のファッションシーンで盛んに叫ばれる”サステナビリティ”を強く打ち出したブランドの先駆けとして、後年記憶されることになるであろう可能性を秘めている。

今回は、10月30日(水)からメンズ館6階=メンズコンテンポラリーにて行われるポップアップを前に、新ブランドのコンセプトやアイテム紹介のみならず、生地作りへの想いやこれからのファッションブランドの在り方について、語っていただいた。


伝えたいのは、”生地”と”文脈”


──石川さんは、当時食の世界では当たり前になっていた”見える化”、トレーサビリティにいち早く取り組んでいましたが、今回のブランドを立ち上げた背景にはどのようなものがあったのですか。

まずは、世界的に見てファッション産業が急激に変化していっていることが挙げられます。原料から生地を作っている海外の方々と話していても、サステナブル、オーガニックの流れは急速に進んでいっていると感じています。ヨーロッパの大きなサプライヤーも環境に配慮したモノ作りを推し進めていますし。そんな中、日本はやや遅れを取っているというか、僕自身少し危機感というものも感じていました。「マーカウェア」で10年、”トレーサビリティ””オーガニック””サステナブル”と取り組んできましたが、これには既存のお客様もたくさんいらっしゃいます。より時代に即したメッセージを打ち出す意味で、新しいブランドを立ち上げる頃合いだと判断しました。

──「TEXT(テクスト)」というブランド名はどこから着想を得たのですか。


「TEXT(テクスト)」という言葉には、実はいろんな意味を持たせています。洋服をゼロから作る上で、特に生地作りに重きを置いている点で”texture”(英語で生地の意)」。それから"context"(英語で文脈という意)、これは一着の服の裏側にある、生産背景をストーリーとして伝えていきたいという想いを込めています。どういう人たちが綿を育て、どういう人たちが糸を作り、生地にして、裁断して、縫って、ひとつの服が出来上がっていったのか。そこまでのストーリーを含めて「TEXT」というブランドになっています。イメージルックを見ていただくとわかりますが、”ジェンダレス”というのもブランドの大きな軸となっています。

──服作りの裏にあるストーリーを伝えることも、ファッションにおける大きな流れのひとつです。

僕らに必要とされているのは、きちんと正直に内情を伝えていくこと。それはお客様に対してははもちろんですが、生地を作る工場や縫製工場などの生産現場の皆さんにも伝えていかないといけないと思っています。決して上から目線ではなく、現状をしっかりと、同じ目線に立って伝える。日本の服作りの現場には、世界的に見ても優れた職人さんがたくさんいるんです。それを後世に残していくためにも、時代に即したモノ作りとは何か、ということをしっかりと見つめていかなければいけないと思っています。


──裏側を知ることで、より豊かな”ブランド体験”が可能になるように思います。

今自分が着ている服がどこでどのように作られたのか、それを知っておくことは重要なことだと思っています。ブランドのホームページでは「ジャーナル」として、原料が生まれる場所や工場などの訪問記を残しています。例えば原料としては、インドの綿農家やオーガニックコットンを生産する工場、アルゼンチンのオーガニックウールの牧場など。工場としては、国内には数えられるほどしか残っていない貴重な吊り編み機でカットソー作りを行う「カネキチ工業」、今でもシャトル織機で綿織物を作る「カネタ織物」などについて。自分の言葉と写真で、伝えられる限りのものを残しています。その場所に身を置くことで、僕自身も大きな感動をもらったり、また考えさせられることも多いんですが、そういったストーリーを踏まえた上で服を着ると、やっぱりその瞬間が豊かになるというか。ふとした時に着心地や仕立ての良さを感じてもらうことで、その日が少しでも実り多いものになればいいなと思っています。


服作りの原点は、農業にあり



──新ブランドのキーアイテムについて教えてください。

今回、アイテムはすべて新しく型を起こしています。基本的には2つの生地がメインとなります。まずは、ブラックアルパカ。今では90%以上がホワイトアルパカとなってしまったのですが、有色アルパカを増やして行こうと取り組んでいる農家の方がペルーにいらっしゃるのですが、その方から直接卸していただいています。染めてないナチュラルブラックアルパカは1%を切っているので、とても珍しく貴重な素材となります。扱いが難しい素材なのですが、創業100年を超える尾州の工場「葛利毛織」さんに頭を下げて(笑)、織っていただています。仕上げはカシミアなどの起毛処理が得意な大阪の「藤井若宮整絨」さんにお願いしています。生地に存在感があるので、コートもジャケットも羽織るだけで装いの主役となる一着です。

 
 

もうひとつが同じくペルーで見つけてきたオーガニックコットン。これも生地を探す途中で、現地の人から教えていただいたのですが、ジャングルの奥地に質の高いコットンを育てている集落があって、そこから仕入れているものになります。ブラウンコットンにホワイトコットンをミックスした生地を、「カネキチ工業」さんの吊り編み機で仕立ててもらい、スウェットパーカとして表現しました。裏地はアルパカで、着心地も抜群です。表裏ともに無染色で仕上げています。

──改めて、サステナブルの重要性について、どのようにお考えですか。

サステナブルというものは、ファッションにおける大きな進化の一つだと思っています。元は絹や綿花、麻などの天然素材から作られていた服たちが、どんどん化学繊維へと流れていった。天然素材を生み出す工程も、規模が大きくなり、環境に対する負荷が大きいものになってしまった。その結果として、看過できないほどの環境汚染や命の危険に晒されるほどの劣悪な労働環境などを生み出している。だから、ファッション業界をあげて、もう一度元に戻ろうとしている。今の技術力はそのままに、負の部分を改善していこうとする流れは、ラグジュアリー、インディペンデント関係なく進んでいます。


──モノを大切に扱うとういうのは、紳士の心得の一つでもありますよね。

生産背景を知ってもらうことで、服をより大切にしていただけるだろうなとも思っています。今後の話になりますが、以前購入してもらった服を持ち込んでいただいて、シルエットだったり、ダメージがあるところをお直しして、リプロダクトするということも考えています。

──最後に、今回のポップアップについて、読者にメッセージをお願いします。

今、ファッションは大きく変わろうとしています。「テクスト」という新しいブランドで、新しいカッコ良さを提案していければと思っています。ポップアップにはなるべく顔を出そうと思っていますので、みなさんといろんなことをお話ししたいです。やっぱり作って終わりじゃなく、伝えることが大事だと思っていますので。アルパカの手触りやコットンの質感など、ぜひ手に取って楽しんでいただけたらと思っています。

イベント情報
<テクスト>プロモーション
□10月30日(水)~11月5日(火)
□メンズ館6階=メンズコンテンポラリー

Photo:Shunsuke Shiga
Text:Ryuta Morishita

*価格はすべて、税込です。

お問い合わせ
メンズ館6階=メンズコンテンポラリー
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