現在、日産は30足。家族と12人の従業員で回している。少し前には長女の娘も働きはじめた。ここにいる息子のマッシモには海外のビジネスとインターネットを取り仕切ってもらっている。

(ボナフェの血を引く男であり、職人をやらせたほうがよかったのではないかと質問すると、マッシモがおもむろに口を開いた)


それはもちろん、はじめのうちはぼくだって靴をつくりたいと思っていたけれど、こればっかりは仕方のないことなんです。ファミリービジネスはみなで協力してやることなんだから。営業もネットも、ぼくじゃなければできない。

(ボナフェはつかのま、視線をテーブルに落とした)

この仕事はほんとうに大変だ。収入も安定しない。だからマッシモは別の仕事に就かせようと思っていた。そのために大学にもいかせたし、語学も学ばせた。ところが後を継ぎたいというんだ……。ぼくは靴づくりで育ててもらったんだからってね。

思い返せば、せっかくの夏休み、海に連れていってやるといってもまったく興味を示さない子どもだった。革の匂いを嗅いでいるほうがいいっていうんだ。

マッシモのところはまだ小学生の女の子だが、大きくなったらお父さんを助けてやってほしいね。


さて、今回もいろんな売り場でいろんな靴をみた。最後にその感想を伝えたい。

うちがトップとは思わない。けれど、劣っているとも思わなかったね。少なくとも、靴づくりに対して嘘はついていない。そこは誇れるね。もとよりそいつはわたし一人の力じゃない。ここにいるマッシモやグエリーニがいるからできることだよ。

むかし、レーガンに<エンツォ・ボナフェ>の魅力を問われてこう答えた。ほどほどハンド、そしてとことん正直。それがボナフェですとね。あぁ、レーガンってのはアメリカの元大統領だ。(突然、瞳を湿らせて)靴はアモーレ。その一言に尽きる。

Photo:Tatsuya Ozawa
Text:Kei Takegawa

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