ほどよいヴィンテージ感。べヴィラクアの魅力は、ここに集約される。この日、テーブルの上にあったジレはウールとアルパカを混紡したオリジナルのヴィンテージ風生地が使われており、着丈も長いバンドカラーシャツを合わせるのだという。もう一枚はどこか懐かしい素材感のコーデュロイを使ったジレに小花プリントのシャツをセットする。ジレはブランド設立当初から人気のアイテムで、この秋、伊勢丹新宿店メンズ館ではジレのオーダー会も催された。

「あくまでクラシックがベースですが、どこかしらレトロなイメージがありながら、現代的な解釈もしていますのでヴィンテージというのとも少し違うんです」。

トレンドを解した確固たるビジョンをもつアルベルト氏はウェルドレッサーとして日本のメンズ誌でも知られた人物だが、ベヴィラクアを手がけるまでファッションデザインを手がけた経験はない。アイウェアやバッグ、アクセサリー、そして建材タイルのデザインを手掛けていたのだという。


「どんなプロダクトでも製造工程は重要です。マニュアル化された大量生産ではなく、素材と工程を重視して、ときには手作業を駆使することで、ほかにはない自分たちだけのプロダクトが生まれるのです。私はどの業界でも、それは変わらないと思っています」

アイウェアと建材タイルとアパレルと、最終的に出来上がるモノは違っても、そこへ至る過程はどれも同じだという。アルベルト氏のユニークな手法がもっとも感じられるのは、コンセプチュアルなテーマだ。たとえば今季ベヴィラクアのテーマに設定されたキーワードは、「Angry Young Man」だ。

「イメージしているのは、50年代の終焉から60年代初頭のヨーロッパ。カフェやレストランをサロンのように集う文化人たちの服装です。そこでの話題は政治と社会と改革の精神です。世の中への不満がポジティブな怒りに満ちている人々です。彼らは腕のいいサルトが仕立てたジャケットと上質な素材のシャツを着ている。上品だけれども、かなり着込まれた様子でジャケットはどこかほつれていたり、シャツはとてもよく着込まれていてしわくちゃです。ちょっとだらしないかもしれないけれどエレガンスもあって、当時の文化背景をとてもよく表すスタイルだと思います」

「ひとりひとりに確立したエレガンスがあるのです」と結んだ。ベヴィラクアはジレとシャツと、少しのネックウェアだけで構成される。パンツはない。ベルトから下は作らないのだという。それは、確固たる信念があってのことなのだ、とも。


帰りしな彼の言葉を思い出した。1945年まで王政を敷いていたイタリアは、ファシストによる独裁政権から共和制に移行したばかりで政治的に不安定な時代。後に「奇跡的復興」と呼ばれる高度成長期が訪れるが、70年代の「鉛の時代」へ向かって、国中が滝へと続く急流を小舟にのって流されていた時代だ。怒りの矛先を向けつつも、享楽から逃れられない性。ふとミラノのカフェの片隅にアルベルト氏が座り、拳を振り上げている姿が過ぎった。

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Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Okada Natsuko

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