〈ルコックスポルティフ〉社会とコミットしたフットウェアとして。|ISETAN靴博2020


靴職人・五宝賢太郎氏が、スポーツブランドと組み生み出す靴。それはスニーカーというよりも、社会の実情を反映したフットウェアに仕上がった。

クラフテッドスニーカーという現代性。


埼玉と東京にて、靴修理やオーダーメイドの靴づくりを行う「GRENSTOCK(グレンストック)」を営む五宝賢太郎氏。今回〈ルコックスポルティフ〉からリリースされる新しい靴の企画やデザインを手がけている。五宝氏はこれまでも革靴やデザインシューズ、スニーカーなど、さまざまな靴の企画に携わってきた。

「〈ルコックスポルティフ〉に関しては、ここ2年半ほど関わっています。担当者の山中さんが設定してくれたのは、〝クラフテッドスニーカー〞という枠組みでした。それを受けて、ソーシャルな意味でのマーケット・インの具現化、というスタンスを考えました。社会の状況に対して、どのくらいコミットできるか。ニューノーマルといった言葉も囁かれる中での、今のライフスタイルに応える靴のあり方、ということです」

〈ルコックスポルティフ〉担当の山中康裕氏は、五宝氏が指摘する社会の状況に対して、シューズマーケットはまだまだ応えられていない、と語る。

「例えば私自身スポーツブランドのスニーカーは好きですが、それを履く、履けるオケージョンは、週末のオフタイムしかないのが実情です。今やワーキングスタイルの足元としてスニーカーでも問題はないのに、週5日履ける靴ということへのアピールは不十分です。もっと日常のビジネスシーンで履くスニーカーに、バリエーションをつけたいと考えました」


〈ルコックスポルティフ〉のクラフテッドスニーカー、最終サンプル。ソール側面の波頭状に盛り上がった形状がサイドリガーで、これにより足のブレを抑えている。アッパーにはシュリンクレザーを使用している。

ソールの中足部後ろから踵上部に向かって、アーチ状に盛り上がっているところにヒールクリップが内蔵されている。ソールとヒールクリップの間には芯などは入っていない、独特な構造。

五宝氏は山中氏らとさまざまに検討を重ね、オフィサーシューズのようなシンプルなプレーンダービーのスタイル、そしてコンフォートなオブリークラストを導き出した。

「スポーツメーカーのつくり方だと、ダービーの羽根の間はかなり開いてしまいます。それをオフィサーシューズのような感じにどれだけ近づけるか、やりとりを重ねました」

と五宝氏。それはスポーツメーカーのスニーカー基準のものづくりに、どの程度ドレスシューズ的なセンスを盛り込むかということだった。その一方で五宝氏は、革靴のつくり方でNGなところも、スニーカーではOKになるとも。今回踵部分は革靴にあるようなカウンター(芯材)ではなく、ヒールクリップという、踵上部を押さえる構造でホールドしている。またソールユニットにはサイドリガーを設けて、横ブレを防止している。「このあたりの発想は、革靴とは違うところです」と五宝氏。さらにこう続けた。


今回のクラフテッドスニーカーのコンポーネンツ。ミッドソール(右から2 つ目)は、足前半部(白色部)に高反発性、足後半部(黒色部)に低反発性の素材を組み合わせている。またインソールも、踵からアーチ部にかけてホールド感をもたせている。

「オフィサーシューズを念頭に置いたのは、どちらかというと制服のようなものがいいと思ったからです。一見普通だけれども、コンフォート性や活動性などは担保されている。何というか、それはシューズやスニーカーというより、〝フットウェア〞という感じでしょうか」

五宝賢太郎
靴職人・デザイナー。靴工房「GRENSTOCK(グレンストック)」代表。埼玉県蕨市の靴職人・稲村有好氏に師事し、その後工房を引き継ぎ独立。靴修理からオーダーメイドの靴づくりまでを行う傍ら、さまざまなブランドの企画やデザインも手がけている。

山中康裕
デサントジャパン〈ルコックスポルティフ〉マーケティング部門、フットウェアMD課課長。今回の五宝氏との「クラフテッドスニーカー」プロジェクトの責任者である。スポーツメーカーがつくるスニーカーとは一線を画すものづくりを目指したと語る。
 


 


今回の靴博にて発表される、『ルコックスポルティフ』のバリエーション。オフィサーシューズタイプとともに、アッパーにメッシュ素材を使ったよりスニーカーライクなモデルもラインナップ。オブリークなラスト形状を反映したアウトサイドの丸みがよくわかる。


今回のクラフテッドスニーカーのコンポーネンツ。ミッドソール(右から2 つ目)は、足前半部(白色部)に高反発性、足後半部(黒色部)に低反発性の素材を組み合わせている。またインソールも、踵からアーチ部にかけてホールド感をもたせている。
text:Yukihiro Sugawara
photographs:Satoko Imazu