2019.06.13 update

Vol.6 マーク・ヴァサーロ | ひたむきに捉えた花の影に、日本古来の美意識が宿る(1/2)

メンズ館2階=メンズクリエーターズのギャラリースペース「ART UP(アートアップ)」で6月27日まで、日本在住の英国人写真家マーク・ヴァサーロの作品展「Emptiness is Form」を開催中だ。会場には、静謐の中に確かな鼓動を感じる、美しい花々のコレクションが陶芸作品とともに並ぶ。モノトーンの陰影から浮かび上がる、彼の創作意欲をかき立てた日本の美学とは? 静岡県の伊豆下田の白浜海岸沿いにあるスタジオで話を聞いた。

イベント情報

「Emptiness is Form」

□6月5日(水)〜6月27日(木)
□メンズ館2階=メンズクリエーターズ
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禅の世界に惹かれ、坐禅を組みに山梨の山寺へ

 

―――ファッションフォトグラファーとして華やかなキャリアを積んだ後、日本に活動拠点を移したのはなぜ?

 

出身校のセントラル・セント・マーチンズでは、東洋美術の講義が好きだった。講義で中国の禅僧が日本に導入した“円相”と呼ばれる円状の墨絵について学び、謎に満ちた禅僧の物語に想像力をかき立てられた。ちょうど同じ頃読んでいたのが、「Zen Mind Beginner's Mind」という本。内容が心に響いたものの、やはり実際に経験してみないと本当には理解できない。座禅をやりたいと思い、日本に来た。受け入れてくれる所を見つけるのに苦労したが、最終的に山梨の山寺で数ヶ月座禅をすることができた。禅については、言葉では表現できない。

 


―――スタジオを日本の下田に決めた理由は?

 

生まれ育ちはロンドンだが、両親は二人ともマルタ人。子供の頃は夏休みといったら必ず地中海の島マルタで過ごした。長い夏休みを毎日海辺で過ごしたので、浜辺と海が自分の一部になっている。数年前に初めて下田に行った時にまるで故郷のように感じ、スタジオを建てるのに素晴らしい所だと思った。 





花の中には難しいけれど撮りがいのある美しさがある

―――花をモチーフに選ぶのはなぜ?

 

2001年から2003年ごろ、パリと東京を行き来しながらビューティーの写真を撮り始めた。ライティングのテストをしていた時、たまたまスタジオにあった花を撮った。後になって写真の山を整理している時、その写真が目を引いた。本格的に撮り始めたのは2007年頃になってからだ。でも、最初の時のような自然発生的で偶然的な、ダイレクトな感じで撮影するのはとても難しかった。最初の2年くらいは、頑張っても中々自分に語りかけてくるような写真が撮れず苦労した。でも表面的にはとてもシンプルな花の中に、これだけ難しいけれど撮りがいのある美しさが隠れている。そう思うと楽しかった。その後だんだんと存在感のある自分らしい写真が撮れるようになってきたが、何百枚も何千枚も撮影して、満足のいく写真は数ヶ月に1枚くらいのものだ。

  ©︎Mark Vassallo
©︎Mark Vassallo

電灯のない日本家屋の中で、表情を変える光と闇の世界

 

―――本展のタイトル「Emptiness is Form」とは?

 

般若心経の「色即是空」から由来している。タイトルは、金箔の花の作品を作ったことが関係している。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん、1933〜34年にかけて発表した随筆)」の中の、金と漆器の美しさと古い日本家屋の関係に関するくだりを読んだときに、電気のない山寺に住んでいた時の記憶が優しく蘇った。日没後や夜明け前の漆黒の闇の中で、蝋燭やランプの炎が揺れ、木造の空間をほのかに照らす光景が。

 

 

部屋の中で金箔が光を捉える様子は神秘的だ。あたかも金箔には磁力があって、その力でわずかな光も引きつけることができるかのようだ。朝は薄青く、午後には少しずつ赤みを帯びてくる太陽の光で刻々と表情を変え、まわりを動く人の気配にも反応し、新たな次元を見せ、まるで生きているかのようだ。

 


「Emptiness is Form」は、ポジティブスペースである花と、それを取り囲むネガティブスペースである金箔との間の緊張感。水とクリームが交わりながら進化してゆく水柱、無形の土から生まれてくる形、全てに関わっている。人間が知覚・認知をどのように体験するか、物とどのように関係を持つかということを端的に表現しているのだと思う。

 

―――これまでの商業写真家としての創作プロセスと、現在の作品創作のプロセスで、共通する部分と異なる部分は?


まず共通点。人も花も、1人1人が持っているそれぞれの肌や花びらや髪の質感によって、最も美しく見えるライティングや角度が違うこと。そして違いは、人はカメラのために動いてくれるし、言葉にも反応してくれる。そこには協業がある。花の場合は僕と協業しようというつもりは全くなく、光や温度に反応して動き、変化する。人の場合は分単位でしか時間がないので短時間で撮り終えるけれど、花は数日かけて昼も夜も見ることができる。つぼみから最後の花びらが落ちるまでを見届け、無数に撮影することができる。

 

 ©︎Mark Vassallo

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