2018.09.10 update

Vol.04 Ly|頭で生み出す、モノクロの世界に住むモンスター(1/2)

ISETAN MEN'S netにて新たに始まった連載企画「ART UP by International Creators」。本企画では、従来より密接な関係にある「ファッション」と「アート」にスポットを当て、様々なアーティストをキュレーション&紹介していく。

第4弾として登場するのは、白と黒、そしてグレーで都会的かつ幻想的な風景、さらに記名性の高い独特の怪物を描くペインターのLy。「臭わないのと、発色加減、マットな質感が気に入ってます。そして缶のデザインも可愛い」と語る愛用のペンキ「HIP」を取り扱っているカラーワークス東神田ショールーム1Fに併設されている、「COFFEE STAND IN THE PAINTING」にて話を訊いた。

イベント情報

Ly ライブペインティング

□9月12日(水)17時~19時
□本館6階=催物場/anea cafe内

 


Ly

東京生まれのペインター。白と黒、そしてグレーを用い、海外で訪れた街並みや、幼い時から妄想していたランドスケープ(風景)を描く。原宿のTHE NORTH FACE STANDARDや渋谷PORTAL Apartment&Art POINT、anea cafe 白金店などのミューラルを制作しているほか、アメリカ、パリ、バンコク、マレーシアなど国外でも活動。高い評価を獲得している。



 

意味の無い色を使うのは嫌なんです。


「7歳から大学生になるくらいまで」地元のアートスクールに通っていたというLy。現在の白と黒、そしてグレーにこだわるようになった(ちなみに、彼女は普段の洋服も黒しか着ない)キッカケは、両親の影響が大きいという。子供部屋の壁紙も黒、ランドセルや水泳道具なども全て黒で統一されていたという。「うちの母親が赤が嫌いで、女の子用のではなく、男の子向けの物を買い与えられていました。でも、別に自分は嫌だなって思うこともなく、自然に受け止めていました」

小さいときから自他共に認める「少し変わった子」だったと語る。さらに、「仲の良い友だちがいるから」という理由で通い始めたアートスクールで、彼女は11歳の時に初めての挫折を味わうことになる。

「1年目はクレヨンで丸、三角、四角とかの図を描いて、それを塗りつぶすっていうことをやるんです。それをずっとやっているうちに、色のことを考えるのが面倒くさくなってしまって(笑)。次第に2色くらいしか使わないようになっていきました。その後水彩絵の具とかを経て、小学5年生(11歳)の頃に鉛筆でのデッサンに入って。最初はキャベツを描くんですけど、一緒に通ってた友達の絵が上手過ぎて。本当に写真のようだったんです。それを見て、自分はこれじゃ勝てないなって思ったのと同時に、自分には目に見えている物を、そのまま描くことができないんだってことがわかりました」


その後、本来であれば油絵を習うところを、先生へ直談判し、好きな物を好きなように描く許可をもらったというLy。最初は黒いマジックペンでひたすらに線画などを描くようになる。

「高校生くらいでストリートアートとかにも興味を持って、大学くらいには描きたい世界観のようなものが、頭の中ではできあがってきて。ただ、その妄想に技術が追いついてないから、描けなくて。単体の黒いモンスターみたいなものばかり描いていました。その頃は背景も描けなくて。モンスターが住んでる世界が描けるようになったのは、5〜6年くらい前くらい。やっと最近描けるようになってきたっていう感じです」

また、黒と白以外の、第3の色とも言える「グレー」が彼女の絵に登場したのは、自身の絵に限界を感じ、悩んでいた時期のこと。

「たまたまスケートパークに友だちと行ったんですけど、その時、自分の気持ちとスケートパークのコンクリのグレーがリンクした気がしたんです。意味の無い色を使うのは嫌なんですけど、その時は『新しい色を獲得した』っていう感覚がすごくあって。それから自分の絵も広がっていきました」

 

彼女の描くモンスターには「HATEくん」「SHITちゃん」「SADくん」といった名前が付けられている。創作の原動力はそういったネガティヴな感情なのだろうか。

「ペイントは辛ければ辛いほど楽しいんです。壁もデカければデカいほど大変だし、細かく描き込めば描き込むほど辛い。あとは自分の技術の無さにイライラしながら描いてたり。そういう感情が出ているのかもしれないですね。私って常に自分の絵に満足していなくて。逆に満足しちゃうと、『もうこういう絵はいいや』ってなっちゃうくらい」「モンスターも実はまだ世に出してないやつらも頭の中にはいっぱいいて。理由はわからないけど、突然『描ける』って思う時があるんですよ。それで一回描けると、今度は逆にその子ばっか描いてしまう。自分でもそれがなぜなのかはわからないんですよ」

「新しいこと」にトライすることは苦手で、ずっと同じことを続けてきたLy。最後に、そんな彼女の今後の展望を訊いてみた。

「長く残る作品を作り続けたいです。それこそミューラル(壁画)とか。小さいときから、頭の中で想像している風景やモンスターを、縮小して描くことが苦手で。壁くらいの大きさがあると実寸で描けるから好きで。それと、何年か前に描いたストリートの壁に、追加でまた描きに行ったりすると、小学生の子とかに『いつも通学路で通ってます』とか、近隣に住んでいるおじいさんにも『君が描いたのか』とか、『この絵の意味は何なんだ?』とか、たくさん話しかけてもらえるんです。それって私の絵がその地域に根付いているっていうことだと思うし、私ができる他者との最大のコミュニケーションなんです」


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