【インタビュー】<LA SCALA/ラ・スカーラ>山口信人 ナポリのスーツをこよなく愛する男が目をかける職人(1/2)

神宮前の閑静なエリアにひっそりと佇む、「ザ・ワインギャラリー」。西麻布で四半世紀の時を刻んできたレストランを営む成田忠明がいまから約1年ほど前にあらたにつくった店だが、ブルゴーニュとシャンパーニュに絞ったその店で新進気鋭のテーラー、山口信人のトランクショーが行われる。成田はワインに負けず劣らず誂えに精通している洒落者で、山口の太い客だ。


「ザ・ワインギャラリー」オーナー成田 忠明氏

想像以上のものをつくろうとする誠意を感じた


──山口さんとの出会いを教えてください。

成田 かれこれ8年になりますか。まだ彼が店頭で既製品を販売をしていたころです、わたしのジャケットをみてピロッティですかって。ピロッティは知る人ぞ知るテーラーです(=ヌンツォ・ピロッティ。ナポリ4大テーラーのひとり)。強く印象に残りましたね。次に会ったときはジェンナーロ・ソリート(彼もまた、ナポリ4大テーラーのひとり)のオーダー会で通訳をしていました。聞けば休みがとれるたびにナポリへ通っているという。面白そうだと思って注文してみたのがはじまりです。

山口 ぼくからしてみればピロッティを愛用している成田さんこそ驚きだったのですが、オーダーをいただいたときにCD5〜6枚を渡されて、それ聴きながらつくってくれと。只者じゃないと思いました(笑)。CDのジャンルですか?それまであまり聴いたことがなかった美しいオペラやクラシックでしたね。CDをお渡しいただいた意味が分かりました。とにかく、いまなおもっとも緊張するお客さまです。

成田 山口さんは呑みにいっても服の話ばかり。女の子の話すらしませんからね(笑)。


<LA SCALA/ラ・スカーラ>テーラー 山口信人


──どんなところが成田さんの心に引っかかったのでしょうか。


成田 想像以上のものをつくろうとする並々ならぬ思いが伝わってきたんです。けして接客は饒舌ではない。饒舌ではないけれど、ものづくりにのぞむ姿勢は真摯そのものだった。それは節くれだった指からもみてとれました。

山口 ありがとうございます。もしそのように感じていただけたのならば、それはナポリで学んだ経験が大きいと思います。かれらは型紙をつかわず、直接生地にチョークを引いて裁断していきます。スーツを美しく仕立てるにはファンタジーが大切だといっていました。ぼくは数値の先にあるもの、かれらがいうところのファンタジーをいかにかたちにするかばかり考えてきました。


──すでに7〜8着はつくられたそうですね。

山口 呑みに誘っていただけるのもしかり、これはもうパトロン精神をおもちだからだと思います。ピロッティの修理も任せていただいているんです。修理も非常に貴重な経験でした。

そうそう、とっておきのネタがあります。下北沢のジャズバーで出会った武蔵美出身の絵描きと意気投合した成田さんは、その日買ったばかりの真っ白なコート、それに絵の具代といっていくばくかのお金を渡していったそうです。彼に好きに描いてくれって。

成田 暗そうな男だったけれど、絵のことを語り出したらとまらない(笑)。あがってきたコートは案に違わず素晴らしいものでした。ひとつだけ誤解がないようにいっておきたいのは、パトロンだなんてそんな偉そうな気持ちはさらさらないということ。若手との交流は自分にとっての刺激になるからいいんであって、それ以上でもそれ以下でもありません。