2017.04.12 update

バッグブランド<TOFF&LOADSTONE/トフアンドロードストーン>静かなる主張が際立つバッグ【インタビュー】坂井一成(1/2)

日本製で、真鍮の鋳物で作られた金具やオリジナル開発の素材を使い、手の良いハンドバッグ工場で作られる男のバッグ――
メンズ館地下1階=紳士鞄バイヤーの井波 亮が、「色、素材、ディテールなどにこだわりつつ、時代性を反映したデザインを上手く機能の中に落とし込むテクニックは、バッグメーカーの中でも希有な存在」と言うのが、バッグブランド<トフ&ロードストーン>。
代表でありデザイナーの坂井一成さんにお話を伺いました。


ブランドアイコンの“真鍮金具”の美しさで、他とは違う存在感を放つバッグ


「スーツを着たビジネスマンがバッグを持っているシルエットはだいたい同じように見えますが、<トフ&ロードストーン>のバッグの特徴は一目瞭然なので、たとえ10メートル離れていてもバッグに付いている真鍮金具の光り方で違います。各ファッション雑誌でも紹介されていますが、うちのバッグがひと際美しい。」と坂井一成さん。

日本のバッグメーカーは、職人によるモノ作りからスタートしているところが多く、製品の品質の安定性などは高いのですが、“クリエーション”面ではどうしても画一的になりがち。特に機能性が求められるビジネスバッグでは個性のアピールは難しいものです。

<トフ&ロードストーン>のバッグがデザインを含めたクリエーションで他をリードするのは、坂井一成さんがアパレルのデザイナー出身ということが実はカギのようで……。


<マリテ+フランソワ・ジルボー>に教えられた発想力の原点


――坂井さんはもともと洋服のデザインに興味があったそうですね。

坂井一成(以下 坂井) はい、洋服が好きで、アイビーが大好きで、大手セレクトショップで18歳のときにアルバイトもしていました。大学を中退して、ちょうどフランスの服飾専門学校のエスモードジャポンが開校し、一期生として入学。文字通りインターナショナルな学校でいろんなタイプの生徒がいて面白かったのですが、自分はデザイン画やデッサンよりも素材に興味があって、素材や付属品などからの発想で服を考えていました。

――それで就職は?

坂井 日本で就職するのがイヤで(笑)、当時憧れだったフランス発祥のファッションブランド<マリテ+フランソワ・ジルボー>で働こうと渡欧。アトリエまで行って、結局働くことは叶いませんでしたが、彼らの作る服のちょっとしたアレンジが素晴らしかったので、その発想を尋ねると、「僕らは服を見て服を作るのではなく、たとえばオープンカーの屋根の開き方を見て、二本の腕のある服にしていくんだ」と言われて、これからの自分の着眼ポイントにしようと思いました。それはとてもありがたい出会いでした。

――カジュアルで一世を風靡したジルボーらしいエピソードですね。

坂井 それから日本に戻ってインポートブランドのデザインに関わりましたが、ちょうどバブル期で、ファスナー引き手をオリジナルデザインで作ったり、素材開発をしたり、ゼロからのモノ作りが当たり前の時代でした。30歳の頃からバッグも手がけるようになり、バッグメーカーのチーフデザイナーに就任。2004年に独立し、翌年に、クラシックな「TOFF=洒落物」と、モダンな「LOADSTONE=人を引き付けるもの」の調和をブランド名にした<トフ&ロードストーン>を創業しました。



バッグはなによりも“ファッションであること”が重要


坂井さんが「会社創業以来、12年間変わらず人気の高いバッグです」と見せてくれたのはレディースのビジネスバッグ。日本を代表するセレクトショップの“定番バッグ”としてロングセラーを誇るのは、A4が入る絶妙のサイズ感や真鍮金具の存在感もポイントで、「ハンドルが擦り切れたら買い替えるという女性がたくさんいるバッグです」と坂井さん。
2013年にスタートしたメンズバッグの大きなヒントにもなったといいます。

――バッグのデザインというのは難しいですか?


坂井 先にお話ししたように自分は洋服のデザイン、特にオリジナルの素材開発から取り組んでいたので、他のバッグメーカーさんの作り手とは最初のスタートから異なります。
レディースのバッグは、モノが入ればどんなデザインにもトライできて、多目的な使い方を求められますが、メンズは制約が多くて、限られた範囲内でのデザインになります。ただ、女性ものも男性ものも“バッグ=ファッション”であることが重要です。


――そのファッションの部分でのこだわりは?

坂井 洋服の仕事をしてきて思うのは、服のボタンやファスナー、素材など細かいディテイルはなかなか気づいてもらえず、どうしてもトータルコーディネート的に見られてしまいますが、バッグでは小さいパーツの開発がとても大きな意味を持ちます。

たとえば、「ダブルビット」というシリーズは、蓋(ふた)の部分に開け閉めがワンタッチでできるマグネットを使用していますが、自分は真鍮以外の金具が見えるのが嫌いなのでシークレット(隠し)にしています。
こうすることで、ファスナーの開け閉めよりもストレスがかからないし、使い勝手も良い。メンズでもレディースでも採用しているマグネット使いは、<トフ&ロードストーン>のデザインと機能の両立のこだわりの一つです。


<トフ&ロードストーン>ダブルビットブリーフ 57,240円

メンズバッグのデザインは、削ぎ落としていくのが重要


――「ダブルビット」のデザインの解説をお願いします。

坂井 「ダブルビット」は木製のトランクをデザインソースにしたもので、港にある船をつなぐ杭をイメージした両側の真鍮金具がデザインアイコンになっています。上の蓋(フラップ)部分が開くタイプで、フラップに隠しマグネット付き。フロント部分は深めのポケットと、内側にファスナーポケットがあり、真鍮金具を外さなくても、ファスナーの開閉ができるので貴重品の収納に適しています。

内装にはファスナーポケットと携帯収納、多目的ポケットがあり、高級感があるオリジナルのモノグラム柄のジャカード素材を使っています。また、出張の多いビジネスマンのために、キャリーケースのハンドルに差し込めるよう背面にオープンポケットをプラス。普段は、下側の開き口のファスナーを閉じてポケットとしてお使いいただけます。


――現代のビジネスユースに過不足のないデザインですね。

坂井 メンズもレディースもデザインはそれぞれ面白いですが、メンズは「なるべくデザインしないように」削ぎ落としていくのが重要で、レディースは引き算と足し算の両方を考えてデザインしています。
特にメンズは“仕事時のスタンダード”にしてほしいので、ブランドのアイコンの真鍮金具を含めて、静かな主張を大切にしています。
自分は昔からインポートのものが好きで、それを求めて渡欧したりしました。例えば車なら、外車のようなデザインに、日本車ならではの細かいところまで行き届いた使い勝手の良さの、両方を兼ね備えたものがあれば最高だと思っています。