その人の身体に合った靴を実現する、〈アルカ〉の魅力|ISETAN靴博2020


その人の身体に合った靴を実現する。伊勢丹新宿店本館の婦人靴売場にて「シューキッチン」を展開する靴店〈ALKA/アルカ〉。靴博にも参加する、同店が追求する履く人に合ったフィッティング、そして靴とは。そのメソッドを実際に体験してみた。

形見の靴を、自分に合わせるやり方とは。


足より大きなサイズだったり、履き込むうちにルーズさが気になりだした結果、靴棚の肥やしと化した一足。これを活用するのに中敷を活用するのも手だ。しかし実は扱いに慎重さを要するのも中敷。適当に使用すると調整どころか足にダメージを与えかねないからだ。

「痛くない、歩きやすい、美しい、そして履いていることを忘れる靴」をモットーに欧州の協力工場にオリジナルの靴を依頼して商品化する〈アルカ〉は、この中敷(同店では「アインラーゲン」と呼ぶ)による靴の調整でも評価の高い店。今回はここに父の形見の調整を依頼した。


サイズは筆者より明らかに大きいが思い出の沢山詰まった一足を、快適に履けないものか?亡父が最も大切にしていたこちらは、40年以上前の国産でかつての典型的な下駄足向け。通勤途中に踏まれてつま先に生じた大きな傷痕こそ残るものの、未だに革質は抜群。思い出深い一足を、もっと快適に履きたい。チェックは靴からではなく、筆者の足と身体から始まった。



まずは裸足でフットプリントをとる。紙の下にインクが塗られ、それに足を乗せて輪郭を描き大きさや形状を正確にトレース。足は全く汚れない。今では大分お馴染みになったが、〈アルカ〉はこの装置を日本で広めた立役者だ。

次に左右のフットプリントをチェック。インクの濃淡で足の各部位での圧の掛かり具合や、偏平足や開張足などの症状まで判断できる。右足の小趾(ゆび)の影が薄いのが個人的には気になるのだが......久世氏の判断はいかに?




フットプリントの状況を踏まえて足の触診。趾の曲り具合や足裏の角質化の位置や程度、それにくるぶしの角度や旋回の滑らかさなどを細かくチェックされる。足を曲げた際の脚部の反応も注意深く確認。そのあとは、器具と触診で腰骨の位置や傾きを確認していく。左右で中敷の厚みの差を要するかを判断するための重要なチェックでもある。左右の脚の長さが異なる人は大抵、脚そのものではなく腰骨のズレでそれが生じているからだ。

そして店内の往復で歩行時の姿勢や脚全体の動きまで詳細にチェック。どのように足と脚そして全身を用いているのかに、久世氏の全神経が注がれる。これを的確に行えるよう、〈アルカ〉の店内はどこもスペースをゆったり確保しているのが大きな特徴だ。

ここで社長の久世氏が一言「体重が軽いので症状として表れていないだけで、身体の各所に深刻な不具合が出ています」。腹筋の弱さなど身体の弱点も次々に言い当てた上で「靴の大きさを活かして、今回はフィット感の調整以上に足の残存機能を高める目的で、より高性能なアインラーゲンを作りましょう」と。



「これだけ脚長差がありますね」。久世氏が右足に結構厚めのシートを滑り込ませた。筆者が左足を投げ出すように歩いたり、立つ時も左足を外に広げる原因がこれ。アインラーゲンにはこれらを緩和させる機能も盛り込むことになった。

この後、ようやく靴のチェックに入ると、思わぬ箇所で不具合を発見。「ヒールが高過ぎます」。現状だとより前傾状態で靴を履き重心のバランスを取り損ねている模様。「修理屋さんが知らずに直しましたね。ここも交換します」



そして店舗内にあるテクニカルルームでいよいよ製作開始。

〈アルカ〉で用いるヒール(写真上)は、クッション性や滑り難さを考慮しゴムの硬度を最適化した特注品。同社の既製靴にも採用されている。従来付いていたものより3㎜薄いが、その僅かな差も履き心地の向上に大きく寄与しているのだ。

(写真下)の赤いものは中足骨を支える目的。データを基に位置・形状・大きさ・厚み・弾性......高度な資格を持つ技術者が慎重に組み上げていく。

数多に渡るパーツの中から、身体と靴に最適なものが組み合わされ、こうして完全オリジナルのアインラーゲンが生み出される。使う素材は牛革やカーボンプレート等と様々だが、環境負荷が少ない点は共通だ。久世氏によると、これらは医療・環境大国のドイツ製が一歩も二歩も抜きん出た品質なのだそう。


そして一時間後、完成したアインラーゲンは、土踏まず部をはじめ起伏がダイナミックに付けられているのがよくわかる。かかと部にはカーボンプレートが内蔵されるなど、スポーツシューズ顔負けの最先端技術が導入されているのだ。



交換したヒールも僅かな高さの違いによる履き心地の大差を実感。これも高品質な部材を使用。アルカではオールソール交換などのリペアも行う。減り具合や履き癖を見た上で、素材や厚みも適切に選んでくれるのが有難い。

また、アインラーゲンの表面は牛革で覆われているので、装着しても外見上の違和感は全くない。因みに牛革はベビーカーフ系の銀付き、つまりアッパーがつくれてしまうほど上質なもので、自然な履き心地にも一役買っている。


アインラーゲンを挿入した形見の靴を早速履いてみると、足入れ時に今まで聞こえなかった「空気の抜ける音」が聞こえた。格段にフィット感が高まった証拠ともいえる。足に綺麗に収まっただけでなく、直立姿勢も一気に楽になった気がした。

「もう大丈夫。歩いたら違いが更に判りますよ」


早速改めて店内で歩いてみた。足以上に脚そして腰部の負担が確実に減っているのを実感。足運びが楽になり、従来に比べ靴が軽くなった気もするし、どの趾も確実に使える。これで同じ靴を親子二代にわたって履けることに。

「僅かな空間で身体を支える足と靴の環境を改善することは、身体全体の状態を改善する第一歩です」。久世氏の言葉が身をもって理解できるとともに、真の調整の大切さも思い知らされた。


久世泰雄
1983年の〈アルカ〉創業以来、15万人以上の足と歩行をチェックし最適な靴や中敷(アインラーゲン)を提案し続ける、日本における「医学的に正しい靴」販売のトップランナー。幼児からお年寄り、障がいを持つ人や著名なスポーツ選手まで幅広い顧客を有する。

Photograph:Takao Ohta
Text:Takahiro Iino

*価格はすべて、税込です。

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