シャツ三賢人が持ち寄った、自慢のオーダーシャツを拝見

―――今日の取材のために、皆さんの渾身作と言っても過言ではないオーダーシャツをそれぞれご持参いただきました。まずは、花野さんのシャツからプレゼンテーションいただきましょう。

花野 約1年ほど前に生地を見て作りたいなと思ったのが、<カンクリーニ>の生地。柄が強いので襟はクレリック、あえてカフスは柄を活かし、オーダー感を残しました。
もう一枚は、シンプルにブルー無地のワイドカラーがほしかったので、Instagramのおしゃれな男性の襟の高さや長さ、角度を研究。「1cm開いて、0.5cm長く」して作った実験作ですが、出来上がってみるともうちょっと攻めてもよかったですね(笑)。生地は国産の100番双糸です。



羽鳥 自分のロンドンストライプのシャツは仕立てて一年経っていませんが、よく見ると、ストライプの縁にネイビーの強い糸が1本入っていて、他のストライプに比べて、これは面白い生地だなと!
花野 羽鳥さんはそこに気がつくのがすごいですね。流石・・・!
羽鳥 ボタンダウンにしたのは、最近トレンドのロングポイントを意識したものですが、「ロングポイントのボタンダウンで、ボタンを外して、カラーバーで留めて、タイドアップする」シャツです。
生地のタッチもソフトで着心地が良いですよ。
谷口 “ボタンダウンのボタン外し”はすっかり羽鳥スタイルの基本ですね。羽鳥さんがやり始めると、こぞって同僚や後輩が真似し始める!!(笑)



羽鳥 もともとボタンダウンはあまり選ばないですが、古いクラシックな映画で観た「ロングポイントで開きが狭い襟」に憧れていて、でも実際にピンホールにするとマフィアっぽいイメージになる(笑)と思ったわけです。
それで、スポーティーなボタンダウンをあえて着くずして、ネクタイを持ち上げる役目のカラーバーで、「ドレスの緊張度の高いスタイルと、緊張度の低いカジュアルをあえてミックス」しているわけです。自分の好み100%ですね。
花野 完全に一周回っていますね(笑)。
羽鳥 シャンブレーのシャツは、襟型違いで同じ生地で2枚作っています。このタブカラーは、7年前ぐらいに行き着いたベストのカタチです。いわゆるタイドアップ用のシャンブレーのシャツですね。


谷口 これが「羽鳥タブ」・・・。7年前に完成していたんですね。
花野 僕らもこの「羽鳥タブ」の恩恵にあずかっていますが、後輩たちもこぞって真似をして作っていますよ!




画像左は谷口が持参したボタンダウンシャツ。対して右が羽鳥の持参したタブカラーのシャツ。
どちらもシャンブレー生地。

谷口 自分はドレステイストなクラシックな装いに移行していく中で、いかにもドレス顔のシャツだとコスプレ感が出てしまうので、どこか一つ着くずしながらおしゃれが楽しめるシャンブレーのボタンダウンシャツを作りました。ボタンダウンは汎用性が高いので、こういう生地のシャツをスーツやジャケットスタイルに合わせたいですね。もちろんボタンは外して着ます。
花野 谷口さんはカラーバーはせずに、軽やかな感じでジャケットに合わせていますね。


谷口 もう一枚は実はまだ着ていないんですが、先月オーダーをして出来上がったばかりです。テーマは、「いわゆる正統派のビジネスマンが着るレギュラーカラーを、今の自分のスタイリングに落とし込むのにどうしたらいいか」。
羽鳥 谷口さんも一周回ってる(笑)。
谷口 ヒントになったのは、ロングポイントのボタンダウンで、レギュラーカラーの剣先を伸ばして襟腰を高くして、試作として作ってみましたが、今までにないニュアンスのVゾーンになりそうです。このシャツを“レギュラーカラー入門”として、着ていきながら改良を加えて、自分の理想形に近づけていきたいです。
花野 ちなみに、羽鳥さんの“マイベストドレッサー”って誰ですか?



羽鳥 時代背景でいうと、1970年代の時代感の服ですね。いわゆるアジアのクラシックな人が目指しているような・・・
谷口 なるほど。装いのイメージはわかりますね。白のリネンのスリーピース、着てみたいです。
花野 自分は同じ年代のアル・パチーノで、ソファに座っているのがなんてカッコイイんだ!と。全てを真似しようとまでは思いませんが、スーツやシャツを考えるときに、ふと思い出している部分はありますね。



“自由度が高くて楽しい”オーダーシャツをもっと身近に普及させたい!

―――三賢者のシャツに対する愛をしっかりとお話いただきいただきました。最後に、今後作ってみたいシャツや、オーダーシャツに興味がある人、もっと楽しんでみたい人へアドバイスをいただけますか?

羽鳥
今現在のシャツに対する「こだわりポイント」って何ですか?
谷口 自分は「襟の芯の硬さ」ですね。かなり気にして作っていて、同じ襟型でも「芯」が違うと表情が変わるので、柔らかいものから硬いものまで試したり、キーパーの出し入れでも表情が変わるので、2面性を出せるようなシャツを作りたいなと思っています。
羽鳥 僕はこれからもいわゆる「色物」に挑戦したいですね。たとえば、「テラコッタ色の3ピースに、真っ白なシャツ。襟の芯が硬くて、ロングポイントで、すごく短いピンホールバーがあって、ノットが小さい」というマフィアカラーを作りたいな。


谷口 しっかりイメージが固まってますね。それはヤバいヤツですよ!!(笑)。
花野 自分は格好良いレギュラーカラーのシャツがほしいですね。既製品を見渡しても、オーダーの襟型を見ても、何かが違っていて、正直自分の中で“コレ”という答えがまだ分かっていません。
谷口さんが実験としてレギュラーカラーの試作を作ってくれましたが、「ネクタイを格好良く締めたい」という思いは、皆一緒ですね。
谷口 「羽鳥タブ」は同僚や後輩みんなが認めている襟型なので、自分は次の襟を作りたい。たとえば、ネクタイの収まりが秀逸なカラー。世の中の人が欲しいなと思う、襟や仕様をかたちに出来たら面白いですね。
羽鳥 オーダーシャツというと自己満足の部分もありますが、着ていく中で、次の装いのヒントや気づきにも繋がります。
それと、体型の変化が非常にわかりやすい。胸周りやお腹まわりがなんだか窮屈に感じる・・・「あれれ?ちょっと太ってきたかもしれないからご飯控えようかな?」とか(笑)。
花野 着ているだけでわかりますよね。「おやおや~?」って(笑)。


谷口 スタイリストとしては、毎シーズンオーダーならではのさまざまな生地を見ているので、コーディネートの引き出しがものすごく増えます。これは、オーダーシャツに携わっている者の財産ですね。
そしてオーダーする側からいえるのは、組み合わせは無限大なので、服好きにはたまりません。「膨大な中から選択するのに悩む」という難しくも楽しい一面もあります。
羽鳥 メンズ館のオーダーシャツは、お客さまのリクエストに応える能力と、選択の自由度は高いです。さらに、お客さまとスタイリストの間で「こういうシーンに着るシャツ」を話し合うこと自体が、お客さまの装いのステップアップになっていて、「自分をどう見せたいか」というこだわりが、襟型やディテール、生地を選ぶ決め手になります。
谷口 確かにそうですね。自分の好みを把握すると、好みがいわゆる「WILL=なりたい姿」になります。「こうしたい」という思いが出てくると、どんどんオーダーは楽しくなる。ぜひオーダーを楽しむために、まずは自分の好きなことや持っている服、その着こなし方などを見つめてください。ヒントに繋がります。
花野 今回、別の企画で体型が正反対な2人のお客さまがパーソナルオーダーをしましたが、「仕事で着る」というファッションというより、装いやソリューションとしてのオーダーに近いものがありました。
ビジネス用だと、生地選びはどうしてもコンサバティブになりがちですが、デザイン選択はかなり楽しまれていましたね。そういう部分でオーダーの楽しさを感じていただけるとうれしいです。



Photo:Hideyuki Seta
Text:ISETAN MEN‘S net

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