なぜこの2冊が、今自分に刺さっているのか


小林 柴田さんから今回のテーマ「名著から紐解く達人のファッション考」を聞いたとき、この2冊のことを話したいと思いました。一冊は1976年版の『世界の一流品大図鑑』(講談社)、もう一冊は1975年に出た『Cheap Chic』です。

『世界の一流品大図鑑』が出た76年は、1952年に始まった高度経済成長が終わった年と言われ、雑誌『ポパイ』が創刊し、BEAMSがオープンした年。ここから日本人のファッション感が、なりたい自分に向かって自らの判断で歩みだした元年だと思うんです。

この一冊は当時の舶来ラグジュアリー業界をブランド切りで解説した日本初のムック本で、その後バブルへと続く日本人のブランド信仰を決定づけた記念碑的な存在。すでに掲載アイテムを手にした芸能人や財界人のインプレッショントークにため息をつきながらも、実は憧れを夢で終わらせない的なパワーが一般社会の間でも爆発寸前だったんでしょうね。そんなうねりの中に投下された、イケイケの高額ショッピング指南書といったものなんです。




小林 片や、『Cheap Chic』は、ベトナム戦争が終わった1975年に出た本で、アメリカの2人の女性ジャーナリストによって書かれたものです。「ファッションメーカーの言いなりにならず、欲しいものだけを厳選して手に入れることこそが私たちの使命でしょ」というメッセージで、こちらの宣言は、「服装に無駄な時間とお金をかけず、私たちが輝くための装備を自分の目線で見つけていこうよ」というものです。

つまり、戦後に朝鮮戦争の特需を受け、太りに太った日本を象徴するようなブランド本と、戦争には勝ったけど、無駄をしまくって、若者たちがすれてしまい、ベトナム終戦の年に出た本なんです。ほぼ同時に世に出たのに、「これから贅を尽くしていいよ」と「贅を尽くして出た答え」といういわば「周回遅れ」なんですね。それが面白い!


『世界の一流品大図鑑』が出たのが自分が10歳の時で、姉貴と掲載商品の金額の単位を数えるのが好きでした。半端ない桁だねと(笑)。
『Cheap Chic』を知ったのは学生の頃で、これはパリの写真集屋で見つけたもの。「あ、オリジナルだ」と思わず購入しました。僕らの世代はこの両軸を持って生きています。


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■Amver <AUBERGE>デザイナー 小林 学
1966年湘南・鵠沼生まれ。高校卒業後、文化服装学院アパレルデザイン科に入学してファッションの基礎を学び、88年の卒業と同時にフランスへ遊学。帰国後、南仏カルカッソンヌに本社のあるデニム、カジュアルウェアメーカーの企画として5年間活動。後に、岡山の最新鋭の設備を持つデニム工場に就職。リアルなモノ作りを学びながら、幾多のブランドのデニム企画生産に携わる。
98年、満を持して自己のブランド<スロウガン>をスタート。懐かしくて新しいを基本コンセプトに映画、音楽等のサブカルチャーとファッションをミックスした着心地の良いカジュアルウェアを提案し続け、現在は恵比寿に事務所を兼ね備えた直営店White*Slowgunがある。
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Text:ISETAN MEN'S net
Photo:Amvai(https://amvai.com/

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