2018.01.07 update

【イベントレポート】『THE RAKE JAPAN』×ISETAN MEN'S──クラシコ・アジアに酔いしれた夜


ゲストを招いたクラシックの夕べ


ジャズの生演奏が始まった。凛々しくタイドアップした紳士たちと華やかなカクテルドレスを纏った淑女たち。事前にアナウンスされていたドレスコードは「COOL RAKISH」だ。思い思いの装いで会場は埋め尽くされ、カクテルグラスを傾けながら服飾談義に興じている。

なかでも目を引いたのは、ダークなネイビーストライプスーツに白いボタンダウンシャツ、小紋柄のタイを締めたひとりの紳士だ。けっして目立つ服ではないはずなのに、その着こなし、フィッティング、そして立ち居振る舞いまでも優雅な彼こそはマーク・チョーである。香港とNYに店舗を構えるメンズショップ「The Armory(アーモリー)」の共同経営者であり、いまアジア・クラシコを体現するリーダーである。この日のゲストとして招かれたマークは、この後、自身のコーディネートの秘訣についてのトークショーを開いたのだ。


自身も愛用するという<リベラーノリベラーノ>のジャケットがトルソーに掲げられている。フロントダーツを取らない独特のフローレンススタイルだ。丸みのあるシルエットが美しく出せるのが特徴である。グレンチェックにダークブルーのシャンブレーシャツとネイビーのニットベストを合わせているのは、ブルーの格子が入ったプリンス・オブ・ウェールズに敬意を表してのことだとマークはいう。

隣のヘリンボーンツイードのジャケットは、<テーラー ケイド>の山本祐平がマークのために特別に誂えたもの。パッチ&フラップポケットを備え、アメリカン・トラッドを体現するボックス型のシルエットがいま新鮮に映る。こちらもシャンブレーのシャツを合わせているのだが、キャメルのウェストコートを重ねているのは温かみのあるツイードの色合いを強調するためだとマークはいう。デニムにスウェードの靴を合わせることで、ラギッドなツイードの魅力が増していた。


「たとえばネイビースーツとひと口に言っても、濃淡があったり、青みが強かったり、パープルがかっていたりと少しずつ色味は異なります。グレーにも茶色っぽいグレーと、青っぽいグレーがありますよね。それぞれ暖色系と寒色系に分類されますが、どちらか一方でコーディネートをまとめてしまうと単調になってしまうので、必ずコントラストを保ちながらミックスするのが私流の合わせ方です」。

これには会場も拍手喝采。大きく頷いていた『THE RAKE JAPAN』松尾編集長がマイクを取る。

「マークさんはたくさん練習されたので、こういったコーディネートができるのだと仰っていました。今日のコーディネートは、ご自身が持参された私服とイセタンメンズで取り扱われている商品のミックスコーディネートです。これがじつに短時間で決めて行かれたのです。ネイビーの色味を見極めると、すぐにシャツやネクタイを選ばれていました。今日のご自身のコーディネートも、そんなセオリーから選ばれたのでしょう」。

クラシコ・アジアのハブとなる



クラシコ・アジアのハブとなる


この日のマークは、ほんのりパープルが浮くネイビーのストライプスーツに、エンジとパープルの小紋タイを結んでいる。幼少期は英国での生活が長かったというだけあって、クラシックな装いの基本が備わっているのだろう。トークショーの後、ゲストと歓談する彼に「日本人のクラシックについて、どう思うか?」と問いかけてみた。

「日本人のクラシックスタイルは、英国やイタリアのモノマネではなく、独自の文化を形成していると思います。海外で修行したテーラーたちは日本で基礎を身に付けてから渡航し、現地の高級テーラーでもとても真面目に研鑽を積まれています。帰国されてから独自のスタイルを生み出せる背景には、しっかりとしたベースがあってこそ。単に新しいスタイルではない成熟したテーラードスタイルが根付いていると思います」。

日本のテーラードにも精通する彼らしい言葉が返ってきた。自身も日本人テーラーと親交が深い。日本を代表するスーツファクトリー、<リングヂャケット>もアーモリーで取り扱われている。


「ところで、いつもボタンダウンシャツをご愛用していらっしゃるようですが?」と訪ねてみると、少し考えてから彼はこう答えた。

「どこかちょっと他の人と違う服を着たいと思ったとき、ロングポイントのシャツがいいなと思ったのです。最近は皆さん、セミワイドなど衿羽根が短いですから。でも、ロングポイントは衿羽根が浮きがちです。そこで剣先を留めているボタンダウンカラーがちょうど良かったのです」。

いま日本ではタブカラーやピンホールカラーなど、衿元をタイトに絞ったシャツが流行っていることを伝えると<テーラーケイド>で仕立てたタブカラーシャツを愛用しているという。「でも香港やNYでは、あまり見かけませんね。本場であるはずのロンドンでもあまりみません。日本独自で流行しているクラシックスタイルがあるというのは、とても積極的で良いことですね」。


この会の主催者でもあり、『THE RAKE JAPAN』編集長の松尾は、そんなマークについてこうコメントしている。

「いまアジアで一番のファッショニスタです。奥様が日本人ということもあって、彼はとても日本通です。彼と話していると、外国人という気がしないのです。半分、日本人のようにさえ思えてきます。それでいてグローバルジェントルマンらしいスマートでシステマチックな考え方も持っている。だからこそアーモリーはアジアのクラシックスタイルを代表する店になれたのだと思います。『THE RAKE JAPAN』もアジアのクラシックスタイルを伝えていくべく、ハブ的な役割を果たしていきたいのです」。

かつてメンズクラシックは欧米諸国をお手本に、日本をはじめアジアは後塵を拝してきた。しかしいまクラシコ・アジアは海外からの評価も高い。列強に比肩する独自の文化が花開いている。

Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Ozawa Tatsuya

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