2017.10.07 update

【インタビュー】ルカ・ルビナッチ|初代の血を引くスティリズモ・ス・ミズーラ(1/2)

紳士服飾界では知らぬ人はいない稀代の洒落者、ルカ・ルビナッチ。世界に冠たる<ルビナッチ>の三代目は「ピスタチオという選択肢があることを伝えたいんだ」とチャーミングに笑って、自分がやるべきことをジェラートにたとえた。 ルカ・ルビナッチが家業入りして15年。とうじ60歳だった顧客の平均年齢は35歳にまで若返ったという。
 

「みずから広告塔になって世界を飛び回りました。クラシックの世界がいかに魅力的であるかを伝えるために」
 
ダブルブレストのボタン下ひとつ掛け、色鮮やかなカラーパレット、胸元で存在感を主張するチーフ、ブレスレットの重ねづけといったアクセサリーの遊び……ぼくらが知る、これまでのルールに照らし合わせれば、ルカの着こなしはこよなく挑戦的だった。
 
「どのような解釈をされても、それはあなたたちの自由です。ただ、ひとつだけいっておきたいのはけして奇をてらったものではないということです。なぜならば、それら着こなしはすべてナポリの洒落者が実践してきたものだから。下のボタンだけ留めるのも1900年代初頭にはすでにみられたものなんですよ」
 
挑戦的だが、奇抜というには品がありすぎた。もちろん名門の三代目、という血統も軽んじることはできないけれど、これこそが伝統のもつ力なのだろう。長い時間をかけて削ぎ落とされた美意識は、普遍性をそなえる。
 

「父のスタイルは素晴らしい。お手本となるべきものです。けれど、わたしにしてみればすこしばかり退屈なものでした。そうですね。ジェラート屋さんを例に考えてみましょう。バニラはたしかに美味しいけれど、それだけでは飽きてしまう。ときにはピスタチオやブルーベリーも食べたい。わたしはバニラ以外のメニューをショーケースに並べたのです」
 
着こなしについては父に物申すルカだったが、話がものづくりに及べば畏敬の念を口にしてはばからなかった。
 
「エレガントとはすなわち快適であることと同義です。世の中には快適とはほど遠い、かなり窮屈なスーツがあふれていますが、遅かれ早かれ時代の徒花として消えてしまうものでしょう。この点で、ルビナッチ家が創造したサルトリア・ナポレターナはすでに完成されていた。踏み込んではならない聖域のようなものです」
 

芯地を極力排したコンストラクション、マニカ・カミーチャに象徴されるサルトリア・ナポレターナはイタリアの各地に芽吹いた服飾文化のお手本になった。軽やかで、体に吸い付くようなそのスーツはほどなく、快適の代名詞になった。
 
サルトリア・ナポレターナを生んだ初代、ジェンナーロはいっぽうでスティリズモ・ス・ミズーラ=スタイリストとして評判をとった男だった。ものづくりを研ぎ澄ましたのが二代目とすれば、まさにスティリズモ・ス・ミズーラのポジションで世の男を魅了しているのがルカである。

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