パンツ職人 尾作隼人×バイヤー 杉田朋彦

ジャケットやシャツなどに比べると軽視されがちだが、パンツこそオーダーで。それには確固とした理由があった。



左:尾作隼人(パンツ職人)
1978年生まれ。銀座の老舗テーラーを経て2008年にパンタロナイオ(パンツ職人)として独立。パンツと家族をこよなく愛する。 
右:杉田朋彦(ビジネスクロージング バイヤー)
1981年生まれ。大学卒業後、2004年に三越入社。ワイシャツやビジネスクロージング部門で経験を積み、15年からバイヤーに。


試行錯誤から導き出した理想のパンツとは


”パンタロナイオ”という肩書を名乗る職人がいる。パンツ仕立てを専門にする尾作隼人氏は、イタリア語でパンツ職人を意味するこの言葉に矜持をのぞかせる。メンズ館5階=ビジネスクロージングで扱う「m039」は、ビスポークの職人をしていた氏による、初めての既製品とパターンオーダーのブランド。三越伊勢丹のオファーにより、日本屈指の技術を誇るパンツファクトリーのエミネント松浦工場がタッグを組み、2012 年にスタートした。

アレキサンダー・マックイーンなど、テーラーの世界で経験を積んだデザイナーに憧れてこの道に。

杉田 尾作さんのパンツはビジネスユーザーにとってすごくフィットしやすい型紙です。日本人の体型を知り尽くしているからすごくリアル。メンズ館では年2回、「m039」のパターンオーダー会を行っているのですが、お客さまの悩みをきちんと解決できているブランドだと思います。
尾作 オーダー会で店頭に立つと、試しにみてもらいたい、という方もいますね。でも、根が正直なので“既製品で大丈夫ですよ”と言うこともあるぐらい(笑)。そういうことも含めて、オーダー体験を楽しんでくれる方が増えています。
杉田 お客さまの体型に合うバランスで、裾幅、膝幅の黄金比を説明しながら、数字を微調整していくのですが、皆さん、そうした流れを楽しんでいらっしゃいますよね。本当に尾作さんファンが多くて。待ってでも尾作さんに接客してほしい、みたいな(笑)。
尾作 オーダーの楽しみというと、ボタンを選んで、ポケットの形状を選んで、といったことをイメージすることが多いと思うのですが、「m039」の場合はそれよりもスタイル。僕のパンツの特徴である“M 字カーブ”のシルエットを、パターンオーダーで味わいたいというお客さまのほうが圧倒的に多いです。
杉田 机に置いて上から見ると、ヒップに沿ってスタートし、膝の部分で前に出て、ふくらはぎの部分でくびれがあって、最後にまた前に出る。脚本来の形に合わせて立体的なつくりになっていて、歩行時もきれいなんですよ。腰へのホールド感が増すように、ウエストのベルト部分が大きく湾曲しているのも尾作さんのパンツの特徴ですね。
尾作 M字は、僕がビスポークでとっていた手法で、アイロンワークでいせ込んだり伸ばしたりをやっていたんです。テーラーからパンツの下請け仕事をしているときに、試行錯誤しながらたどり着きました。すべてを模倣しているわけではありませんが、パンツづくりを追求していくうちにナポリ仕立てへの憧れが強くなって、彼らのものづくりから多くを学ばせてもらいました。



先シーズンより5ポケットパンツが登場し、人気を呼んでいる。

杉田 「m039」には、尾作さんが一本28時間かけて仕上げる、ビスポークパンツの設計思想が反映されています。だから一度、体験してリピーターになるお客さまがとても多いんですよ。
尾作 パターンオーダーなので“なんでもできる”と言ってしまうのは語弊がありますが、強みは体型に合わせた膝位置を設定できること。裾と膝の位置が決まれば、ふくらはぎのふくらみや膝裏のしゃくれなど、シルエットは修整できますから。それだけでも、すごく印象が変わると思いますよ。
杉田 オーダーだと身長が低くても膝位置が上げられますからね。尾作さんのパンツってすごく脚がきれいに見えるんですよ。
尾作 膝下ストレートのほうが、脚が長く見えるといわれていた時期がありましたが、僕のつくるパンツは基本的にテーパード。膝下ストレートよりも股ぐりのフィット位置を引き上げたほうがいい。
杉田 あとは丈ですよね。身長の低い方が長くしてしまうのは、かえって逆効果です。
尾作 いちばん大切なのはバランスですから。あと、タイトなパンツを好む方も多いのですが、適正なサイズで、生地が自然と落ちるのが、きれいに見えるポイント。膝も、裾も適度にゆとりがあって、適切な股下の設定をして。


色はライトからミディアム、チャコールといったグレーのバリエーションとネイビーの濃淡が中心。右のプリーツ入りのパンツは尾作自身が「もっとも僕らしいモデル」というほど、気に入っているデザインだ。

〈m039〉
パンツ 左・28,080円、中・24,840円、右・28,080円
パターンオーダーパンツ 38,880円から
お渡し:約4週間後から
■メンズ館5階=ビジネスクロージング

杉田 最近はプリーツ入りのパンツが売れています。ここ数シーズンでシルエットの流れが少し変わりましたよね。
尾作 プリーツ入りは僕の基本スタイル。時流もありますが、試着すれば絶対に納得していただける自信はあります。逆にブームになると終わるのが怖い(笑)。ビスポークではほぼ9割が2プリーツパンツですから。
杉田 尾作さんのプリーツ入りパンツは、着用したときにプリーツが広がりにくいですよね。
尾作 腰まわりにゆとりをもたせたいからプリーツを入れているのではなく、単純にデザインですよね。好きだからプリーツを入れる。プリーツがまっすぐに落ちる、ビスポークのノウハウを投入した型紙を引いているので、ほかのプリーツパンツとは違うといった感想をいただくことも多いですね。
杉田 パンツのクリースがきちんと脚の真ん中にくるのもすごいですよね。通常の細身パンツだと、細すぎて生地が突っ張って、裾の後ろが跳ねてしまうんです。その点、尾作さんのパンツは立体的に設計されているから、生地がまっすぐに落ちて、シルエットもきれいなんです。尾作 お客さまがはいたときにラインが美しく見えるパンツを、今後もつくっていきたいですね。


*価格はすべて、税込です。

お問い合わせ
メンズ館5階=ビジネス クロージング
03-3352-1111(大代表)