2017.02.13 update

【インタビュー】<Belvest/ベルヴェスト>フランコ・マンゴラン|圧倒的な優位性と矜持の在り処(1/2)

手持ちのスーツやジャケットの肩の部分をつまんでみてほしい。中にふわふわとした資材が入っているだろうか。クラシックな仕立て技法では、綿を布で挟んだパッドや硬く張りの強い麻糸、馬の尾の毛などを織り込んだ芯地、増芯と呼ばれるフェルトの布などが幾重にも織り込まれることで肩の丸みや厚みを形成している。薄布一枚ではシャツと同じくシワだらけになってしまうが、正装としての見栄えを考慮しながら人ぞれぞれ異なる肩の立体に対応するために編み出された必然の様式美である。


<ベルヴェスト>のセールスマネージャーを務めるフランコ・マランゴン氏

しかし最近は薄い芯地を一枚挟むだけで立体的な肩構築を実現させているジャケットが多い。実際に布と針と糸を手にしてみればすぐに気付くが、平面の布にシワを入れず肩を包むように丸く形成することは、とてつもなく難しい。これを布のプレス作業とイセ込みとよばれる少しずつ布を寄せながら縫い込む高度な技法を駆使して実現するには並々ならぬ技術力を要する。

サルトの世界では手作業で丹念にアイロンを掛け、熟練した職人がひと針ひと針、手作業で縫い上げることで可能にしてきた一子相伝・門外不出の奥義であり、メーカーが多くの職工を雇って大量に量産することは人材的にも技術的にもほぼ不可能だったのだが、これを既製品として量産することに成功したのは私が知る限りベルヴェストが最初ではないだろうか。


「アンコン=アンコンストラクテッド」と呼ばれる芯地を使わない仕立て方は、イタリア語で「センツァインテルノ」と呼ばれる縫製技法を指し、パリッとしわなく仕立てるサルトリアーレと異なる、ふわりと軽いフィッティングに仕上がる。そのため休日のカジュアルジャケットの製法として使われることが多く、いまでもアンコンジャケットの多くは気軽な休日向けのリラックスジャケットとして紹介されいて、ビジネスやフォーマル向けのドレス用ジャケットとして採用されることは稀である。しかしどうだろう、ベルヴェストのアンコンジャケットは会社に着ていけるほどに美しく仕立てられているではないか。


現代のアンコンジャケットのはしりはボリオリの「Kジャケット」に始まっていると考える人は少なくないが、じつはそのオリジンはベルヴェストの「ジャケット・イン・ザ・ボックス」にあった。文字通り折りたたんで箱の中に収まるほどやわらかな仕立てなのにドレス感ある美しいテーラードジャケット。効率化するための機械縫製は着心地に関わりのない箇所にのみ限定されており、芯地の使いはもちろん袖付けや裾のあしらいなど、やわらかな仕立てを必要とする箇所は手仕事で仕上げられている。そのため形こそ同じラペルをもつテーラードジャケットであるが、国会議員や経営者たちが着ているシワひとつない総毛芯仕立ての鎧のようなスーツとはまったく別の服となる。タリアトーレやラルディーニよりも遥か昔から、ベルヴェストは芯地を使わない薄くて軽いフィッティングのジャケットを作っていたのだ。

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