好きこそ物の上手なれ

靴磨きは奥深いものじゃない。だれでもできる。お客さんは時間がないから、人に頼むだけ。だけどね、きれいになるでしょ、そうすると目の前の顔がぱっと明るくなるでしょ。やっぱりうれしいよね。それにこの歳になってもまだまだ発見があるしね。

クリームをつくりはじめて、この仕事をしみじみ面白いと思うようになった。欲しい色がどんどん廃番になっていった時期があってね。むかしからちょいちょい混ぜたりしていたけれど、いまは仕入れた顔料で本格的に調合している。つくる、ってのはやっぱり面白いよね。

靴も買いました。170足までは数えたけれどね。だいぶん処分しちゃった。ウエストンのローファーは色違いで7足玄関に並んでいました。



話のリズムがいい? ぼくは下町の人間だからね。お気に入りの落語家は古今亭志ん生。芸の肥やしの意味をちゃんとわかって実践した人だと思う。え、ばかいっちゃいけないよ。ぼくのは単純に好きってだけだからね。そんな大層なものじゃない。靴買ったのも、食い道楽なのも、海外いったのも、アバンチュールもみんなそういうこと。

そこ聞く? 海外はね、なんといってもフランスとイタリア。南仏には知り合いが住んでいてね、いい街だったよ。日本ならともかく、向こうで野郎とふたりきりの食事なんてぞっとしないよ。自分でいうのもなんだけど、女性を会話で楽しませるのはうまい。こんどは昼においでよ。旨いピザを食わせる店があるんだ。天丼もいい店があるよ。

80まではつづけようと思っている。クリームもあと10年はつくれる材料があるよ。それから先は身体と相談しながら。週に1回でも店に立ちたいね。そのままコロッと逝けたら最高だ。

後進もひとり。筋がいいよ。これがほんとの、お後がよろしいようで(笑)。

Text:Takegawa Kei
Photo:Suzuki Shimpei

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