親骨が16本の傘は、円に近いシルエットが美しい


<前原光榮商店>の田中一行さんは36歳。「もともとサラリーマンで、モノづくりに興味はありましたが、特に傘作りにこだわったわけではありません。でも、職人が作った傘を開いたときに感動して前原に入社。職人さんの下に1年半ほど通い詰めて、1日中同じ作業をすることから始めました」と、現在キャリアは3年ほど。「今、傘作りを支えている職人はほとんど70歳後半から80歳代で、私の世代は珍しいです」と笑う。

<前原光榮商店>の紳士傘といえば、先代社長が開発した親骨16本の傘が有名。「いわゆるコウモリ傘は骨が8本で、<前原光榮商店>では8本、10本、12本、16本を手がけていますが、16本は開いた状態が円に近く、美しいシルエットが男女ともに人気です」と田中さん。

台東区三筋にある「前原光榮商店ショールーム」の上階にある工房で、田中さんは生地の裁断からハンドル付け前までのプロセスをすべて一人で担当。「1本作るのに2時間強かかるので、1日4本仕上げるのが限界」だそうだ。

 

16枚の三角形の生地が骨に張られ、傘になっていく

 

今、男性に人気の傘は、「60cmで16本の骨の傘が定番で、色ではダークブルーが人気です。黒だとフォーマル感が強いようですね」と田中さん。仕事の醍醐味を尋ねると、「生地のクセなどもあって、同じ工程でも一つとして同じ傘ができないところでしょうか。<前原光榮商店>の傘はすべて手仕事で、高級な西洋の傘メーカーの商品より手がかかっています。手仕事だからこそ自分の感覚と経験でコントロールしていくのが面白いですね」と続けた。


プロセス①
傘用の生地を裁断する

まず、自ら調整して作った三角形状の「木型」を生地にあてローラーカッターで断っていきます。生地は傘用に加工されている防水コーティングが施されたもので、生地がずれないように4枚重ねで裁断。4枚×4セットで16枚が一本の傘用です。 


プロセス②
傘専用ミシンで生地を縫い合わせていく

三角形に裁断された生地を2枚ずつ端を織り込みながら縫っていきます。「自分は3年やっていますが、ミシン毎にクセがあってまだ使いこなせていません」と田中さん。ミシン糸は撥水加工が施されています。


プロセス③
縫い上げた生地を中棒に縫い付ける
16枚が縫い合わされたら、中棒(シャフト、芯棒)の上の部分に縫い留める「てんかがり」という作業に移ります。「縫い上げた生地を中棒に留める作業ですが、傘の張力を支える重要な部分で、傘の開きに影響するのでしっかり縫い付けます」と説明。中棒は、強度があって加工しやすい樫(かし)の木が使われています。


プロセス④
傘の形になってきたら、16カ所先端を付ける

骨と生地を留める先端のキャップを「露先」といい、16本骨で16カ所、手作業で縫い付けます。微妙な加減でシワを生む繊細さの求めらる工程です。


プロセス⑤
手縫いで2カ所、骨と縫い合わせる

傘がスムーズに開き、生地と親骨がずれないように、1本の骨に対して2カ所、手縫いで丁寧に縫い留めていきます。この作業は「中とじ」と呼ばれています。


プロセス⑥
手元(ハンドル)を付ける前までで完成
露先を付け終わると、次は付属(パーツ)の取り付けです。先端には「菊座」と呼ばれる雨の染み込み防止の為の布、さらにその上から「陣傘」という金具を取り付けます。他に傘をまとめるバンド、紳士傘においては袋を作成します。傘加工はここまで。あとはオーダーや仕様に合わせ、手元(ハンドル)を付けてようやく完成です。

*価格はすべて、税込みです。

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