2015.07.03 update

帽子作りを根底から突き詰める、〈キジマタカユキ〉デザイナーが四半世紀のキャリアで気付いたデザインの未来とは

人々を魅了する、モノに込められた思い。ブランドが誕生し、成長するに至った道程。普段見られないクリエーターの素顔を見つめることでデザインを通して創られる五感で感じる“豊かさ”の理由について考えたい。今回は、帽子ブランド〈KIJIMATAKAYUKI/キジマタカユキ〉デザイナーの木島隆幸さん。本人が語るその歩みと、モノづくりへの想いとは…。


もう25年以上前の話になりますが、帽子デザイナーのアトリエでまず帽子作りに関わるスタートを切りました。僕がアトリエにいた5年間は、東京コレクション全盛期と言われ、ありとあらゆるブランドが“奇抜さ”を求めて先生を訪ねてきました。当時は極端なデザインが主流で、さらに被り心地まで意識してつくるのは容易ではなくって…。デザインや素材使いの勉強になることばかり。

ただ、デザインをプラスして好バランスを生むのは難しいことで、デザインを殺し合い、足を引っぱり合うことも多い。たとえ帽子単体で良い出来だとしても、それをスタイリングしたときに靴との相性が悪いなんてこともありますからね。そういった時代だったといえばそれまでなのですが、デザインを省くことも確固たるデザインのひとつという思いが湧くきっかけになりました。

だから自らのブランドを立ち上げてからは、シーズンごとにコンセプトを設けず、突出した存在感を放たないように意識しています。理想は、スタイルを邪魔せず、それでいて帽子を足すことでスタイルが確立するモノづくり。あくまでファッションの一部なので、控えめでありながら主張はなくてはなりません。そのバランスが重要です。


また僕自身が、服装に左右されずに合わせられるものが好みなので、モード、ストリート、コンサバ…、それを問わず、色々なウェアに合わせやすいものを、と考えています。そこに、いまの空気感は少し入れていけたらさらにいいなと…。これが僕のブランドのアイデンティティになっています。

もう一つ、コンセプトがあって、帽子の不自由な点を解消すること。たとえば脱いだときに、持ち運びの邪魔になることがあります。それを逆手にとって、バッグに押し込んで形崩れしても、それがいい味わいに変わるシルエットを考えたり、クルッとまるめられる素材を使ったり…。その最たるものがペーパー素材のハット。ストレスを感じずに持ち運びできて、さらに通気性がいいことから夏の定番素材として長年多用しています。

こういったもの作りは、教科書に載っているような伝統的な帽子作りやルールに縛られると浮かばない発想です。そこは臨機応変に対応できるように“デザインの余白”を残して取り組んでいます。


中には、畑違いのカットソー専門ファクトリーに製作を依頼したり、洋服でボンディングが流行っていると聞いたら試してみたり、常に進化を楽しみ、求めてきました。これまでお決まりのように、芯地の厚さや素材を選びデザインを行ってきたんですが、そこに疑問を持ったのがここ数年のこと。芯地を使わない方が微妙なニュアンスがつけやすく、かぶった人が自分の髪型や顔形に合わせてアレンジしやすい。それを実現するには、ある工夫も必要なのですが、これが今となってはお家芸と呼べるテクニックになりました。これも進化があって、試行錯誤してきた結果のひとつです。

ここ最近、街で僕の帽子をかぶっている人を見掛けると、皆さん被り方や使い方が上手だな、と本当に勉強になります。約20年間、ブランドを続けてきてやっと日本人のファッションに帽子という文化が根付いてきた気がして嬉しい限りです。海外のジャーナリストに「日本ほど帽子をかぶっている人が多い国は珍しい」と言われたことがあって、ハッとして…。


海外では帽子=格式を示すシンボル。だから紳士は紳士らしいハット、作業員はワークキャップ、伝統はあってもファッションとしてまだまだ発展途上だと気が付いて…。20年前に日本人に対して感じた衝動が再び沸々と湧いてきて、そこで海外でのチャレンジを2年前からスタートさせました。そして、自分のなかで生まれた感情が、他のブランドに負けない老舗になりたいという思い。

 

ひとつの目安として創業何年という言い方をされるじゃないですか。ただ自分ひとりではどうにもできない積み重ねが必要なことなので、年月や歴史と言うよりは帽子といえば<KIJIMA TAKAYUKI(キジマ タカユキ)>と挙げられるブランドになりたい。そこで必要だと思うのが、トレンドだけでは終わらず、時代とともに変化しても長年愛され続けるもの作りをし続けること。

特にメンズは、見た目ではわからない、丸みやつばの長さといった細部の調整で被った時の印象が大きく変わるので、やはり3〜5年周期でカタチの微調整や進化が必要だと思うんです。これを続けていくことが年月と歴史の差を縮められることかなと…。負けず嫌いなところがあるので、やるからには海外の老舗ブランドにも負けたくない!という思いで、今はデザインと向き合っています。

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Photo:Ozawa Tatsuya
Text:Miyata Keiichiro 

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