日本橋三越 工房探訪|Vol.1 <MINAMI SHIRTS/ミナミシャツ>



―「モノ」を誂える場から「個性」を誂える場へ―

をコンセプトに、時代と場所を超える、真の身嗜みを提供する売場へと2019年夏にリフレッシュオープンした日本橋三越本店本館2階パーソナルオーダーサロン。国内外の一流ブランドのオーダーメイドからレディトゥウェアにいたるまで、幅広いアイテムを展開。ソーシャルからオン、オフすべての場に対応し、新の紳士の身嗜みをトータルで提供します。

このコーナーでは、パーソナルオーダーサロンでご紹介するさまざまなブランドの工房を訪問し、それぞれのブランドのモノ作りに対してのこだわりや想いをお伝えしていきます。

第1回は、職人が採寸から型紙作り、裁断、縫製、仕上げまでを一貫して行うビスポークシャツのブランド<MINAMI SHIRTS/ミナミシャツ>。千葉県流山市、住宅街の一角にある工房に、創業者である南祐太氏を訪ねました。



 

インタビュー

――<ミナミシャツ>を立ち上げたきっかけ、シャツ作りに携わるようになったきっかけを教えてください。

南祐太氏
<MINAMI SHIRTS/ミナミシャツ>創業者

学生時代(華服飾専門学校ファッションビジネスコース)から漠然と洋服屋をやりたいとは思っていました。シャツはその頃から好きで、担任の先生からシャツブランドをやってみては?と言われたこともあります。卒業後すぐには就職せず、3ヵ月くらい経ち、たまたま情報誌で見つけた近所のシャツ工場で働くようになりました。

その工場は百貨店のオーダーシャツの縫製工場で、働いているうちに、「もっとこうした方がいい」とか「こうすればもっと良くなる」と思うようになったので、24歳の時に独立しました。

独立した当初は自ら営業活動をして、都内の老舗シャツ店の下請けの仕事をもらっていました。徐々に多くの仕事をもらうことが出来るようになってきたのですが、収入はなかなか上がりませんでした。そのような状況を変え、もっとシャツの地位を上げたいと考え、29歳で今の工房兼住居に引っ越し、自分の名を冠したブランド「ミナミシャツ」を立ち上げました。



――モノ作りで一番大切にされていることは何ですか?

ブランドの立ち上げ当初と変わらず、今もシャツの地位を上げたいと考えています。しっかりと手を掛けたシャツを作り、適正な価格にすることで、職人に対しても適正な報酬を支払うことが出来ます。そうすることで、シャツの職人になりたいという若い人を増やしていきたいです。


――ハウススタイルはありますか?

ハウススタイルを持っていません。それを持つとうちのシャツはこうだと決めたものをずっとやっていかなければならない。未来に向かって生きていく為に、あえてハウススタイルは決めていません。
ただ、最近だとギャザーを入れる仕様の注文が多いですね。それはやっている工場が少ないということもあると思うのですが。


――マシンとハンド、どちらの注文が多いですか?

ご注文自体はマシンが圧倒的に多いです。シャツの着心地を決めるのは、型紙と生地が99%です。手縫いかどうかは精神的なものに近いですかね。もちろん、肩部分の柔らかさを出すためにハンドを用いることは多いですが。



――日本橋に直営店をオープンされていますよね。

33歳の時にオープンしました。それまでは東京でトランクショーもしく、工房に直接ご来店頂き、ご注文をとっていました。直営店のオープン当初は予約制でご来店を受け付けていましたが、現在は、日・月曜日を除く12時から19時まで店を開けています。午前中はアトリエにいて、午後は日本橋の店舗に移動するという感じです。

――<ミナミシャツ>の特徴や強みを教えてください。

どんなテイスト、スタイルにも対応できるところです。

ビスポークでは、どういうシチュエーションで、どう着たいかを伺って作ることを最も大事にしています。なかなか万能な形というのは存在しないので。ただ、三越伊勢丹限定のモデルはどんな方でも、そして、どんな着用シーンでもバランスよく美しい形を意識して型紙を作製しました。

あと、台襟の型紙にも特徴があります。これまで色々なシャツを着てきたのですが、どれもネクタイを締めると苦しかったのです。首のラインに沿って、前下がりの型紙を作ることで、ネクタイを締めてもきつくならず、かつシャツのボタンを開けて着た時ももたつかず、綺麗に開く襟となりました。

――シャツ製作は「分業」ですか?「丸縫い」ですか?


分業制です。分業にした方が新しくシャツの職人になろうとする人がさっと入りやすい。シャツ作りを新しく始める人のハードルをできるだけ低くしたいという思いがあります。


――これからのモノづくりでチャレンジされたいことはありますか?

どうしても「シャツの仕立屋」と言うとクラシックな印象になるので、今後はもっとオーダーを身近なものに感じてもらいたいと考えています。今、土に還るシャツ(副資材含め全て)というのを企画しているのですが、こういう取組みで新しい顧客と出会えることも楽しみにしています。

また、今は綿花を育てることにも興味を持っています。日本の綿花の自給率って、ほぼ0%なのです。何年にどこの畑で収穫された綿花で、どこの工場で何年製の織機で織ったのかを明確にした生地を作りたいと考えています。そして、その生地を使用したシャツを販売したい。ワインのように、トレーサビリティを明確にするだけで価値が上がると思っています。



実はもう既に綿花も育てるプロジェクトにも参加しています。来年、超長綿がとれるか検証して、再来年から本格的に育てようと思っています。例えば、その土地で育てる綿花の権利を最初にお客さまに買って頂いて、実際に畑仕事も体験してもらう。最後は収穫した綿花を使用した生地で僕がシャツを仕立てるということをやりたいです。金額的にはものすごく高くなってしまうのですが…。ただ、そういった体験も含めての金額だと共感してくださるお客さまもいらっしゃると確信しています。もちろん、綿花が育たなかった時のリスクとか色々とハードルはありますけどね。

 

製作工程


インタビュー後、製作工程についても南氏に伺いました。

【工程①】型紙製作

お客さまのサイズを数値入力(ゆとり寸なども含め)し、微調整を行います。完成した型紙は切れ目が入ってきた状態で出てきます。ちなみに、このソフト自体もゼロから作ってもらったものだそうです。


【製作工程②】裁断

まず、切れ目の入った型紙を切り離します。その後、生地の上に型紙を乗せ、カッターで裁断していきます。職人としての見栄えを考えればハサミの方が良いとは思いますが、ハサミは刃を入れると生地が持ち上がり、ズレが生じます。カッターの方が圧倒的に正確で速いということです。


【製作工程③】アイロン

前立てとなる部分を重ね合わせ、でんぷん糊を塗ります。
その後、重なる部分にアイロンを掛けていきます。
※この時は上前(前身頃を合わせたとき、上側になる身頃)を製作されていました。

【製作工程④】縫製

出来上がったパーツをミシンでつなぎ合わせていきます。ギャザーを全体的に均等に入れるのが難しいとのことです。パーツの縫製が全て終わったらボタンを付け、最後に糸始末を行います。特にボタンホールはボタンの付け外しに影響が出る為、念入りにチェックします。

【製作工程⑤】仕上げ

仕上げのプレスも全て手作業で行います。
<ミナミシャツ>のシャツはフラシ芯ですが、アイロンを一気に掛けてもシワがよらないことに驚きました。芯地をバイアスに入れることによって、生地に合わせて芯地も伸縮するため、シワが寄らないのだそうです。

▼スタッフのファッションコーディネートやトランクショーなどのイベント情報をお届けします。



Photo&Text:NIHOMBASHI MITSUKOSHI MEN'S
Edit:ISETAN MEN'S net


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