2021.02.16 update

【インタビュー】<ソング フォー ザ ミュート>オーストラリア発、二人のデザイナーが作る、愛の詰まった自由で純真なクリエーション


伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズでは、オーストラリア発のウエアブランド<Song for the Mute/ソング フォー ザ ミュート>にフィーチャーし、2021年春夏コレクションを展開する。ブランドを手掛けるのは、旧知の仲であるMelvin TanayaとLyna Tyの男女のコンビ。2010年にブランド設立後、素材を活かしたデザインやパターン、カッティングなどに注力しつつ、ストーリー性のあるコレクションが評判を呼び、業界関係者を中心に、徐々に浸透し始めている。ブランドを始めるきっかけから服作りに関すること、そして今後の展望などについて幅広く聞いた。

<Song for the Mute>から届いた、今回のメンズ館での
ポップアップのためだけに作られた
スペシャルなアニメーション
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  1. Ⅰ.絶妙なコンビネーションが織りなすアーティスティックなウエア
  2. Ⅱ.伊勢丹新宿店メンズ館で展開ができることが嬉しい

Profile

 Lyna Ty(リナ・タイ氏) /  Melvin Tanaya(メルビン・タナヤ氏)
<Song for the Mute>共同創設者





Ⅰ.絶妙なコンビネーションが織りなすアーティスティックなウエア


――2人の出会い、そしてブランドを始めるきっかけとなったこととは。


Melvin:クラスメイトだった10歳のころからお互いを知っています。一緒に勉強し、兄弟のように育ってきた仲です。年齢を重ねるたびに、自然とグラフィックデザインやファッションなどに興味を持ち始め、2人でグラフィックTシャツを作るようになりました。その期間、約1年。いわば趣味の延長で、コレクションができ上がったのです。

Lyna:最初はビジネスとして始めるつもりはありませんでした。ただ強く思っていたのは自分たちの心にインプットされてきたものをストーリーとして、みんなに伝えたいと思ったのがきっかけです。

――毎シーズンのストーリーとはどのようなものですか?

Melvin:各シーズンは、リナの経験に基づいたファッションやアートの表現であり、それぞれのチャプターが、彼女の人生の中で感じたものです。<ソング フォー ザ ミュート>は彼女とともに成長していくので、どのコレクションもユニークな仕上がりを見せています。私たちが作るコレクションは、彼女が世界をどのように見ているかを垣間見るもので、彼女の審美眼を通してカタチとなり、彼女の内なる進化の拡張だと思っています。

――2019年春夏と2020年春夏のコレクションは、環境や生い立ちなど、これまでの経験をベースにしたものを展開している。

2019SS /19.1 'STILL LIFE' DSM INSTALLATION

Melvin:2019年は「Still Life」と「Hunter」がテーマでした。どちらも、内なる深い静けさ、自分自身を見つけるために内なるものを探すというところから導き出したテーマです。オーストラリアは広い国ですが、日本やヨーロッパなどに比べてさほど人口も多くありません。そのため今でも美しい大自然に恵まれており、それを楽しむことがライフスタイルの一部となっているんです。その恵まれた環境を活かし、大自然に恵まれた中で、特有の「静けさ」を表現したいと考えていました。私たちは、オーストラリアの「アウトバック」を都市に持ち込み、私たちが暮らし、私たちを取り巻いている広大で美しい風景を忘れないようにという想いでこのテーマを決めました。

2020年は「Le Bled」と「Djebel」。それは自分のルーツを見つけること、そしてどこから来たのかということが自分を形作っていくのだ、ということをテーマにしています。故郷へのオマージュであり、私たちを定義する文化的な歴史を表現していて、「Le Bled」と「Djebel」のどちらも、リナのパートナーであるカリムの故郷であるチュニジアへの旅から生まれました。リナは、そこで出会った人々の温かいもてなしと家族の絆に惹かれました。その時、彼女が感じた歴史の素晴らしさがコレクションに表現されています。

Melvin:コレクションは私たちの旅です。各シーズンの個人的な体験によって作られているストーリーがあるので、すごく思い入れがあります。面白いと思うのは、僕たちは性格がまるで正反対であるということ。リナは歴史にひもづいた旧いものが好き、僕はテクノロジーや最新の技術が好き。またリナは感覚で選ぶのが得意で、僕は順を追って着実にこなしていきたい派。ブランドを手掛けるにあたって、相互のバランスが取れているんじゃないかと思っています。2011年に正式にブランドを立ち上げてから今年で10年目になります。デビューをした年に、オーストラリアのデザイナーオブザイヤーを受賞したことが自信に繋がりました。10〜12人ほどの小規模なチームですが、僕たちの服作りに世界中の色々なバイヤーやサプライヤーなど、さまざまな方々に関わっていただけてとても嬉しいです。

――ブランドを象徴するロゴは、一見すると不規則なものだが、これには深い意味があるのだという。


Melvin:長年使っていた手描きのブランドロゴから刷新して2年目になります。この新しいロゴはファミリーツリーをイメージしています。もともと2人でスタートしたブランドですが、そこから子ども(自分たちのコレクション)が育っていくにつれ、服作りには色んな人が関わってくれています。ブランドが木の幹であるのに対し、コレクションを重ねることで、葉や枝など生い茂った木の下にみんなが集まって、一緒にいるような暖かなイメージを新しいロゴに込めています。

――そして日本、イタリアを筆頭に、他国へ生地探しの旅に出かけるほど、生地選びにはこだわっている。

Lyna:コレクションで使用している生地は、10年前から同じメーカーのものを使用しています。イタリアや日本などの、歴史のある生地メーカーから仕入れています。そして私たちは年に2回ほどの生地探しの旅に出かけています。いまはコロナ禍で自粛気味ですが、いろんな国々の生地のスペシャリストたちと触れ合う機会は、私たちのコレクションでは必要不可欠なのです。


Melvin:いろんな国のいろんな生地に出会いたいと思っています。そして生地を作る職人たちに直接会うことで、その生地への愛を確かめることは、私たちのクリエイティビティを刺激してくれます。そのため、ウエアをデザインする上で特に気をつけているのは、巡り合った最良の生地を、自分たちがデザインをすることで殺してしまわないように、生地の特性を活かしたものにすることです。コレクションの手法はシーズンごとに異なりますが、それぞれのストーリーによって、どのようにして生地を巻き込んでいくか。例えばシーズンによっては、デザインが決まっていない段階で、生地を見ながらどうカタチにしていくかなど、生地の開発も僕らのコレクションには欠かせません。

――クリエーションを進めるにあたり2人の意見の衝突はあまりなく、旧知の仲だけに、密にコミュニケーションをとることでコレクションを構築しているという。

Lyna:意見が衝突するということはあまりないですね。子どものころから知っていて、彼の内面も含めてすべてを知っているのは大きいです。反対意見があってもよくコミュニケーションを取ることで、お互いの中間地点であったり、お互いが納得するカタチで折り合いがつくので、本当に良い関係だなと思っています。

Melvin:僕たちはそれぞれ違う役割を持っていて、お互いが信頼のもとに成り立っています。例えば、リナが言わないようなことを僕が言ったりするパターンもあって、補う関係が構築されていて、ビジネスパートナーであり親友であること。その関係がラッキーなことだといつも思っています。基本的にはリナがブランドのクリエイティブディレクターを担当しているので、彼女が伝えたいストーリーを、僕がアシストをして世の中に伝えていく、そんなイメージです。


――日本のファッションに対して抱いている印象とは。そしてコロナ禍での変化にはどう対処しているのだろう。

Melvin:日本に行くたびに、日本のファッションから良い刺激をもらっています。立ち止まって道ゆく人のファッションを眺めていることもあり、その度に本当にクリエイティブな表現をしているなと思います。ミックス&マッチで、それぞれのファッションを個性豊かに楽しんでいる印象です。そして、コロナ禍の影響で、これから何が起こるかわからない、新しいコレクションを手掛けてもビジネスとして成り立つのかなど、日本をはじめ、イタリアなどで作られる生地に投資していることもあり、色々な可能性も含め議論をしました。今季はパリのファッションウィークもありません。

今回、久しぶりに3人(タナヤ、タイ、カリム)でアトリエに籠って、これからどうするかじっくり議論していました。これまでのコレクションのベストセラーを再構築するなどの案もありましたが、それは自分たちが、心からやりたいことではない。世界中がコロナ禍ということもあり、我々もネガティブな気持ちになることもありましたが、ブランドとして挑戦することをやめてしまったら、弱気なスタンスが世の中に伝わりますし、何より新作コレクションを切望しているファンの皆さんも求めていることではないだろうと考えました。それで、むしろ思いっきり挑戦をしよう、ゼロからしっかりと服作りをしてみようという結論に達し、今回はこれまで以上にポジティブなコレクションになったと自負しています。


Ⅱ.伊勢丹新宿店メンズ館で展開ができることが嬉しい


――公私ともに親しいカリムのクリエイティビティに注目した、2021春夏コレクションがスタート。


Lyna:2021年春夏コレクションは「NAÏVE(ナイーブ ※純真、素朴の意)」をテーマに、子どものような無邪気さ、自由な発想を表現しています。かれこれ10年ほど、公私ともに仲良くしているカリムからインスパイアされました。カリムは卸しのマネージャーを担当しているのですが、絵を描くのがとても上手で、それをスケッチブックに残していたりして、彼のアイデアを活かしたカタチで今回のコレクションを制作しました。カリムのドローイングはナイーブで子供っぽくて謙虚な印象です。世界中がコロナ禍でシリアスなモードになる中、そんな重い空気を、今回のコレクションを通じて軽くしたいという想いもありました。 カラーはパステルカラー、タイダイなど、幼少期に戻ったような自由な発想でコレクションを手掛けました。生地とコンセプト、どちらが先かと言われたら、今シーズンはコンセプトを軸にファブリックを選んだという感じです。

Melvin:2021年春夏は、特に<ソング フォー ザ ミュート>のコンセプトに合っていて気に入っています。カリムは卸しのマネージャーであり、ブランドのファイナンス関係のことも手伝ってくれていて、実に多才でクリエイティブなんです。 とはいえ、彼はこれまでクリエイティブな分野で働いたことも、それに近いことをしたこともありませんでした。だからこそ、彼が自分の創造性を表現する機会とプラットフォームを提供してくれたことが、今シーズンのコレクションを、より特別なものにしてくれています。私たちは、この機会をきっかけに、世の中の人たちが自分の才能を信じるようになればと願っています。




今回のメンズ館でのプロモーションスペースでは、原寸大の人間の大きさほどのパペットを用意しました。いまの社会では、クリエイティブなものも表現の良し悪しにルールがあるような気がします。でも私たちは、そんなルールを無視し、むしろ超越するような、世界の一人一人がクリエイティブに表現しても良い、子供のころのようになんでも自由に表現しよう、ということをパペットを通じてブランドの世界観を伝えたいのです。

2021年春夏コレクションを日本で披露できるのは嬉しいですね。伊勢丹新宿店メンズ館に行くと毎回すべてのフロアを回りますが、特にメンズ館2階がお気に入りで、そこで展開できるということはとても光栄で、嬉しく思います。 今夏の展示をきっかけに、また新たに小さなコミュニティを作って、それをもっと大きく広げていけたらいいなと思っています。

イベント情報
<ソング フォー ザ ミュート>ポップアップ
  • 開催期間:2月17日(水)~3月2日(火)
  • 開催場所:伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズ

【店舗情報】
2月19日(金)は本館1階~7階・メンズ館は休館とさせていただきます。
2月19日(金)の営業について
営業時間変更のお知らせ

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Photo:Song for the Mute
Text:Kei Osawa
International director : Kiki Fukai

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伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズ
電話03-3352-1111 大代表
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