靴づくりの技術を使ったものや靴をモチーフまたは素材とした作品たち。ISETAN靴博にて展示される、唯一無二の存在を紹介します。


ハンドメイドの靴づくりをベースとした作品。──三澤則行




三澤則行

1980 年宮城県生まれ。日本とヨーロッパで約10年間靴づくりの修業を行い、2011年に「MISAWA & WORKSHOP」を設立。今日まで国内外で5回の展覧会を行い、海外からの評価も高い。


ビスポークの靴職人として独立した時から、靴づくりと平行して、作品づくりをおこなってきた。「クラシックな紳士靴では表現できないようなものを作品として発表していました」と三澤さん。当初は手間暇をかけた作品が多かったが、手間や器用さとアート性との違いを感じ、最近ではクラフト的なアプローチから離れたものを
つくることも多い。「自分にしかできない、靴づくりをベースとした作品とは何かを、いつも考えています」。


『ブレードランナー』他の映画美術でその名が知られる、アメリカのデザイナー/イラストレーターのシド・ミードにインスパイアされた作品。靴底などに使われる肉厚の革にくせ付けして、曲線を表現している。一部に金箔を使用。


靴の底にフィドル(ヴァイオリン)とギターふたつの楽器と演奏者を刻印。フットプリントはそのまま版画にもなる。リズムや音楽と靴との関係が端的に表現されている。アッパーは弦楽器をモチーフとしたデザインになっている。世界的アーティスト「Don Kilpatrick Ⅲ」との共作。



スニーカーの「劣化の正当化」を作品に。──SHOETREE/シューツリー




杉本浩介
1985年東京都生まれ。短大でデザインを学んだ後、生花店やアパレル等での経験を経て、2016年末よりスニーカーを使った作品をつくり始める。各ショップなどでの展示多数。


念頭にあったのは、ゴミとも見なされるようなものにいかに価値を生み出すか、という遊び心だったという。かくして導かれたテーマが「劣化の正当化」。加水分解したりして履けなくなったスニーカーを使い、植物とともに再生させる。侵食されたように、アッパーのデザインにあわせてコケを配置して、森で置き去りにされた靴をそのまま持ってきたイメージを具現化した。今回のISETAN靴博には、新たに花瓶型の「KICKVASE」が登場。


ISETAN靴博に合わせて制作された花瓶型の「KICKVASE」。緑の部分はコケ、靴が置かれた板には焼きを入れた桐を使っている。マネキンを使って表現された脚部の内側にはグラスが配されて、草木をいけることができる。


KICKVASEのバリエーション。花瓶型であることがわかりやすいようにあえて切り花をディスプレイした。従来は小さな鉢植えのグリーンを配した作品が多かったが、こうした花瓶型は花卉によって印象が大きく変わるのでより多彩な楽しみ方ができそうだ。


新たな地平を目指し、あえて面倒な方法を。──バナナヤマモト




叶佑也
1987年千葉県生まれ。印象的な作家名はインスタグラムのアカウントのため、愛犬の名をアレンジしたもの。独自の作風は日本国内だけでなく、海外からも注目されている。

「点描画家」として活動して、今年で3年目。前職は保育士、灰谷健次郎作品に触発され、子どもの感性を得るため選んだ職だった。そしてより広い視野、新しい体験を求めて絵を描き始める。「点描は、自分にとって一番気持ち良くない、面倒な方法として選びました。そうすることでより遠くに行ける、面白くなるかもと」とバナナヤマモトさん。1日6時間以上点を打ち、1週間程度でA4サイズの作品が完成する。「圧倒的にやること」という作家の言葉には、凄みが感じられる。



ISETAN靴博のために描き下ろした革靴をモチーフとした点描作品。過去数多く描いてきたスニーカーとは異なり、「表面がつるんとして、光沢があるのが難しかった」とのこと。この他に2つの革靴作品の展示を予定。


51足スニーカーを描いた時点で展示が決まり、さらにイチロー引退のニュースも重なったことで制作したコラージュ作品。スニーカーというモチーフは、年齢や国籍を選ばず伝わるものとして選んだという。


靴修理をベースに生まれた作品。──RECOUTURE/リクチュール






広瀬瞬『リクチュール』代表
1986年東京都生まれ。大学在学中に靴修理に目覚め、中退して靴修理店に勤めた後、2014年に独立。2019年には渋谷に店舗を移転した。


『リクチュール』の主たる業務は、スニーカーを含む靴の修理。しかし彼らが追求するのは、修理の技術や方法をベースとした物づくりだ。「単に元に戻すのではなく、新たなものへ発展するような修理。さまざまに実験する中で、作品やカスタマイズの方法が生まれます」このように語るのは、リクチュール代表の広瀬瞬さん。おなじみのスニーカーにステッチダウンでソールをつけた靴には本物と本物を組み合わせるという意図が込められている。


アッパーに和服の古着を使った、スニーカーのカスタマイズ。アウトソールにはヴィブラムソールを使い、革製のパーツを配して、ステッチダウン製法で縫われている。元々は顧客のリクエストに応えて生み出した製法という。


スタイリストのリクエストに応じて考案されたという、大きく張り出した側面を持つソールのカスタマイズ。ISETAN靴博では、古い靴を使いこのカスタマイズメソッドでつくられた作品を出展予定。

Photo:Toru Oshima,Takao Ohta(portrait)

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