2019.02.19 update

Vol.1 baanai | 劣等感が生んだ、圧倒的なオリジナリティ(1/2)

02.27 Wed -03.26 Tue
伊勢丹新宿店 メンズ館2階 メンズクリエーターズ
2019年2月27日(水)、メンズ館2階=メンズクリエーターズ内にギャラリースペース「ART UP(アートアップ)」 が誕生する。さらに濃密化しているファッションとアートの蜜月関係をひも解くべく、独自のキュレーションによりさまざまなアーティストを紹介。

記念すべき初回アーティストには、コム デ ギャルソンのアートワークを手がけたことで知られるペイントアーティストのbaanai氏を迎え、作品展「inaiinaibaanai」を3月26日(火)まで開催。彼が描き出す、独自の世界観はどのようにして生まれたのか――これまでの道のりと、絵に対する想いを訊きに、鵠沼にあるアトリエを訪ねた。

イベント情報

baanai 作品展 "inaiinaibaanai"

□2月27日(水)~3月26日(火)
□メンズ館2階=メンズクリエーターズ

 
baanai 
神奈川県藤沢市鵠沼生まれ鵠沼育ち。2015年COMME des GARCONSの川久保玲氏にポートフォリオを送り、初めて作品が採用される。2016年には同ブランドのDM、洋服、ショッピングバッグ、2018年パリコレクション(2019SS)、2019年にはDMの第一弾アーティストに起用される。また、RVCAやaudio technica、MINE DENIM、CONVERSE SKATEBOARDING などにもアート作品を提供しコラボレーションを実施。近年は「ARIGATOUGOZAIMASU」 をアートとして1日も休まず描き続けたらどのような事が起こるのか、という実験芸術を行っている。


生まれも、育ちも、湘南の鵠沼。日本のサーフィン文化発祥の地といわれる場所で、幼いころから波に親しんだ。12歳で本格的にボディボードを始め、14歳からはショートボードに乗るようになった。そして陸に上がれば、いつもペンを握っていた。目の前に広がる無限のキャンバス。周りからすれば落書きのようなスケッチに、時間を忘れて没頭した。


子どものころの夢は、サーフィンをしながら絵を描いてハワイで暮らすこと。でも、それを口にした途端、大人たちから猛反対された。

それでも、やっぱり絵が好きだった。


幼少期のbaanaiが描いた一枚。連続する数字はパソコンからイメージされたという。


「高校時代、美大受験のために近所のアトリエに通おうと思い、美術の先生に推薦状をお願いしに行ったんです。そしたら、面と向かって“あなたが絵で生きていけるとは思わない”と言われたくらい、成績は惨憺たるものでした。実際、アトリエでのデッサン評価はほぼ最下位。どうしても、教えられた通りのバランスで描けなかったんです」

受験は失敗、大きな喪失感とともに、しばらくは無気力に襲われた。高校を卒業しても就職せず、アルバイトをしながらサーフィンに明け暮れる日々。10年ほど経って絵は再開したものの、もはや他人からの評価は望まなかった。




「子どものころのように自由に筆を走らせたいと思っても、何を描いていいのかわからなくなっていました。自分にはデッサン力がないという敗北感があり、そのコンプレックスが大き過ぎたんでしょうね。だから、バランスを考えずに、とりあえず好きな言葉を画面いっぱいに描いてみることにしたんです」

それが、いまにつながるキャンバス一面をひとつのメッセージやモチーフで埋め尽くす手法だった。イタリア語で“信じる”を意味する「CREDERE」にはじまり、「WAVE IS THE HERO」「SURF HUMBLE」「LIVE IN CONTEMPORARY」など、自身の挫折や希望、海やサーフィンを通して出合った言葉を、ひっそりとキャンバスにひとりぶつけ続けた。

しかし、そんな生活を何年か続けていたとき、いくつもの苦難に直面する。

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