2019.01.29 update

【インタビュー 前編】<イシカワ>洋服ブラシ 石川和男(代表)|たかが洋服ブラシ、されど洋服ブラシの職人人生(1/3)

<イシカワ>の洋服ブラシは、羽毛のように柔らかく、さらにコシがあるのが特徴の馬毛「尾脇毛(おわきげ)」を使ったブラシで、生地を傷めにくく、素材本来の風合いを蘇らせるとして、時には生産が追いつかないほど人気の洋服ブラシ。

作るのは、「親子でのツーショットは初めてだな」と言いながら少し照れたようにポーズをとるブラシ職人の石川和男さんと息子の賢吾さん。
ブラシの誕生秘話を聞こうと訊ねると、「自慢じゃないけど、この素材で、このクオリティで、手をかけてブラシを作ろうという職人がいなかったんですよ」と和男さん。
世界が認める洋服ブラシを“発明”した和男さん(前編)と、その道を継いだ賢吾さん(後編)を合わせてどうぞ。





落ちこぼれサラリーマンから、なりゆきでブラシ屋に就職


私が若い頃は高度経済成長期まっただ中で、働け、稼げという時代。学校を出て、大手企業に入って終身雇用というのが人生のサクセスストーリーだった時代に、広告代理店に営業で入ったんですが、私に根性がなくて何をやってもダメ。それから何社か転々として、要は落ちこぼれですよ。「俺の人生、どうしたらいい」と思いましたね。


インタビューで訪れた工房には所狭しと洋服ブラシ作りに必要な工具や材料が並んでいた。

そんな30代中盤の頃、たまたまブラシ屋に糊用の刷毛(ハケ)を作る職人として就職しました。ブラシ屋の組合主導で百貨店の家庭用品売り場で販売を始めたんですが、そこで見た洋服ブラシは相変わらず昔のままなんです。冬物の生地向けの「硬くて、重くて、厚い豚毛のブラシ」しかない。洋服は時代とともに柔らかくて、軽くて、薄い生地に進化しているのにブラシはそのままで、こんなので大丈夫なのかな?と思っていました。

職人に話を聞くと、「たかが洋服ブラシ」だというんですよ。「毛が硬いからそっとかければいい」と言う。全然真剣じゃない。そんな時に、お客さんから、「クリーニングに出すと生地の風合いが落ちた」とか「生地の光沢がなくなったので良い手入れ方法はないのか」という声が耳に入ってきた。