2018.10.19 update

【ファッション賢人の数珠つなぎコラム|第2回】ジャーナリスト・長谷川喜美

ファッションやライフスタイルに一家言ある紳士の聖地、伊勢丹新宿店メンズ館。ここに、きょうもひとり、ファッション賢人がやってくる。「紳士の名品」は、いかにして継承され、輝き続けてきたのだろうか。それは、想いを伝承し、守り続けてきたからではないだろうか。賢人たちの言葉は、新たなファッションを未来をつくるヒントとなるはずだ。さぁ耳を傾けよう、賢人たちの声に。


長谷川喜美
ジャーナリスト。イギリスとイタリアを中心にヨーロッパの魅力をクラフツマンシップと文化の視点から紹介。メンズスタイルに関する記事を雑誌中心とする媒体に執筆している。著作『サヴィル・ロウ』『ビスポーク・スタイル』『チャーチル150の名言』など。Instagram:www.instagram.com/yshasegawa/


"進化したフランネル"──不変のクラシックな美しさと優れた機能性を併せ持つVBCスタイル


スーツのスタイルにも流行があるように、ファブリックにも流行がある。春夏の素材でいえば、シアサッカーとソラーロはここ最近のトレンドとなっていた。そこで今秋注目の素材といえばフランネルになるだろう。フランネルは伝統的な英国素材、今までは肉厚でしっかりした重めのウェイトが好まれていた。しかし、フランネルも近年の温暖化とライフスタイルの変化に伴い現代の需要に合わせたフランネルが生まれている。伊勢丹メンズでは今季、イタリアの老舗"ヴィターレ・バルベリス・カノニコ"の新しいフランネルに注目している。


ヴィターレ・バルベリス・カノニコ(以下、VBC)は創業1663年、ヨーロッパでも最古のミル(毛織物メーカー)のひとつであり、現在も創業者から続く13代目バルベリス・カノニコ一族が経営するイタリアの名門ミルだ。創業の地である北イタリア、ビエラ地方は高級服時の生産地として有名だが、こうした高品質な服地生産の鍵を握るのは「甘い水(スイート・ウォーター)」と呼ばれる水、そして服地製造すべてを自社で行う一貫生産にある。

服地生産には大量の水を必要とする。鍵となるビエラ地方の水はミネラル含有量が低く軟質のため、服地生産に向いている。自社工場のあるプラトリヴェッロではモーリエ川からの豊富な水源が高品質の服地生産を可能としているのだ。さらに最も重要なのはウールの紡績、織布、仕上げ工程に至るすべての工程を自社工場で一貫生産していること。〝メイド・イン・イタリー〟のウール生産では最大規模を誇る。すべての工程を自社内で行うことができるため、すべての工程をクオリティコントロールし、ハイクオリティなファブリックを他社では実現できないリーズナブルな価格で提供できるのも同社の強みだ。いわゆる「高価な製品=高品質」ではないことを同社の製品が証明している。

今回は来日したVBC社のイメージ&コミュニケーション・グローバルマネージャー、シモーネ・ウベルティーノ・ロッソ氏にVBCのフランネルの特徴を語ってもらった。


「定かではありませんが〝フランネル〟という言葉の語源のひとつはラテン語の〝フラミニヨンズ〟から来ているとされています。これはフィロ、ヤーン、つまり糸という意味です。このことからもフランネルがファブリックの原点であることが理解いただけると思います。長い歴史とタイムレスな価値を持つザ・ファブリック。このことも私がフランネルを好きな理由のひとつですね」

一見、着用する人を選ぶイメージのあるフランネルだが、実は誰にでも合う万能素材だという。

「柔らかいので快適に着用できますし、ふっくらとした質感のあるフルボディのファブリックは、小柄な人は大きく、大柄な方は引き締まってみえます。年間5,000種類のコレクションを発表するVBCには様々なフランネルはありますが、梳毛(ウーステッド)か紡毛(ウールン)か、また服地のウェイト(目付け)を選ぶことによって、どんなボディシェイプにも対応します」


VBCはイタリア製でありながら、スーツとなった時に仕立て映えのするハリ、腰のある英国調のファブリックを製造することで知られている。特にこのフランネルにはその特徴が生かされている。

「いわば両国のファブリックの良い点を兼ね備えているのです。フランネル特有の起毛感とマットな質感には英国的な控えめな美しさとエレガンスがあります。対して〝メイド・イン・イタリー〟の良い点はファインな糸と最先端のテクノロジー。弊社のフランネルはフランスのヴィゴロー氏が開発したヴィゴロー製法で製造されています。これはウール繊維に網目状のダークプリントを施してから紡績する製法で、これにより撚糸をかけた段階で糸がメランジュ調になるのでカラーに奥行きが生まれます。単色のプレーンなフランネルに比べ、シャツ、タイ、ポケットスクエア(ポケットチーフ)といったアクセサリーにも合わせやすいのです。表面の毛羽立ちを程よく抑えた仕上がりなので、フランネルの中では膝が抜けにくく、摩擦に強い点もお勧めしたいですね」


この日、ウベルティーノ・ロッソ氏が着用していたのは340gの"オリジナル・ウールン・フランネル"のハウンズトゥース。クラシックなウェストコートとの3ピースのダブルブレスティッドスーツにブラックとホワイト効果のあるハウンズトゥース柄を選択した、その理由は?

「"グレーフランネル"という言葉に代表されるように、もちろんチャコールグレーはフランネルにとってはベストカラーです。永遠の定番ともいうべきカラーですね。一方でチョークストライプはとてもシリアスなビジネス向き、プリンス・オブ・ウェールズは時にスポーティー、それに比べてハウンズトゥース(犬の歯)は名前自体ユニークでユーモアがあります。カントリーな雰囲気もあって、堅苦しくなり過ぎない感じが好きなんです」


タイやチーフにアクセントカラーとなるグリーンとオレンジを入れ、遊び心と抜け感を演出している。シャツは"トーマス・メイソン"、タイはVBC別注の"ドレイクス"、ポケットスクエアは"リヴェラーノ&リヴェラーノ"、ブートニエールチェーンは"バルバローナ・ナポリ"。ブラウンのスエードシューズは"クロケット&ジョーンズ"。スーツ、タイ、靴と起毛感のある素材で合わせたことから全身のコーディネートに統一感が生まれている。

伊勢丹メンズではこれらのVBCフランネルコレクションを豊富に揃えている。今秋は自分に最適なフランネルの一着を見つかることだろう。

Photo:Tatsuya Ozawa
Text:Yoshimi Hasegawa

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