2018.10.29 update

【特集】神戸のつくり手たち Vol.2<BAGERA/バゲラ>|一つのテーブルから生まれる、オーダーメイドという仕事(1/2)

街を愛し、モノ作りに情熱を注ぎ込む──横浜と並び、世界に開かれた港町としていち早く栄え、独自の文化を育んできた神戸。震災から立ち上がったこの街で、モノ作りに励む3組のクリエーターを訪ねた。


神戸の港から山にかけて登る、坂の途中。五毛五差路の交差点南西の角、3階建て赤煉瓦タイルの1階。V字路の角に佇む<BAGERA/バゲラ>の工房は、どこかへタイムトリップをしたような錯覚に陥るレトロで不思議な空間だった。

味わい深いフォントが目を惹く屋号。アンティーク品が所狭しと並ぶ店内。それらすべてが<バゲラ>のモノ作りの構成要素であったことは、ふたりの話を訊いて納得できた。

この工房で働くのは、芸大で建築を学んだのち鞄職人として修行を積んだ高田和成氏とその同級生であった妻の奈央子氏、アシスタントとして働く女性の3人。建築を学んでもなお、「テーブルの上で完結する仕事をしたい」と革製品のオーダーメイドに取り組む夫妻に、神戸でのモノ作りを訊いた。


革製品も家も、「大事なモノを容れる」のは似ている


芸大時代に建築を学び、多くの偉人たちが生み出した建築物に触れてきた高田夫妻。そこで学んだことは構造の大切さだった。

『美しいものにはすべて構造が伴っていて、使うことをイメージしている。そのため、使えば使うほど差が生まれてくる。例えば、鞄のストラップの付け方一つにしても、何をどれだけ容れるかによって太さや芯材を見極めなければなりません』(和成氏)

一見すると気がつかないような部分まで細心の注意を払うことで、モノを容れたときに佇まいが変わる様は一目瞭然であった。



向き合うことで生まれるモノが<バゲラ>という存在


『お客さまが持ち込んだアンティークバッグからたくさんのインスピレーションを受けました。その経験は今の私たちの創作のベースになっていて、その構造に裏打ちされたデザインでなければ美しいものができないという確信も得たんです』(和成氏)

<バゲラ>は、「革製品のオーダーメイドをネットで受注する」というのが珍しかった2002年にスタート。気になる鞄をバラしては作り方を研究してというほぼ独学からはじまり、現在では和成氏が「構造主義」的な鞄を、奈央子氏が「感性を重視」する革小物を主に担当する。


『お客さまからオーダーをいただくと、まずはデザイン画を描き、それをパターン(型紙)に起こし、その後、フェルトを使って実際に試作。立体になったときの見え方や持ち手のバランスを確認することでイメージしていたカタチを忠実に表現できるんです』(和成氏)

<バゲラ>ならではのユニークなアプローチだ。


『鞄製作はアドレナリンが出っ放し。ゼロから10にするのが好きなんです』と和成氏に対し、『仕上がる1割手前のときが無茶苦茶楽しい。苦労して作ってきて、後はコバ磨きの仕上げだけになると、急に寂しさに変わるんです』と笑う奈央子氏。

和成氏は、『設計や建築も好きでしたが、モノ作りは建築と違って、デザインから製作までを一つのテーブルの上で完結させることができるのが魅力。何より工房に籠もって仕事をするのが好きなんです』とも語った。



『壁にぶち当たると山に登って、課題と向き合います』(和成氏)

いつからか裏手にある六甲山を登ることが愉しみとなり、今では週1回、3時間かけて往復する習慣に。汗をかいて登って、景色を見下ろして。自分自身と対話したり、二人で話したり。煮詰まったアタマを和らげ、新たな創作へ歩み寄っていくという。

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