春の風をはらみながら、軽快に手ぶらで歩けるロングコート

──<マーカウェア>石川俊介

「衣食住と言いますが、ファッションの世界はもっと食を倣(なら)っていい。自分の服作りでは、最近、食から発想を得ています」という<マーカウェア>デザイナーの石川俊介氏。食の世界では“トレーサビリティー=流通追跡可能性”が当たり前になってきていますが、石川氏が手がける服もオーガニックやサスティナブルな素材に切り替えているといいます。【My Best Coat】で石川氏が提案するスプリングコートとは。


着丈が長いアウターは、大人に似合うシックな感じが出せる


――イセタンメンズから今回のMy Best Coat】の依頼があったとき、まずどう思いましたか?

イセタンメンズのバイヤーから「コート」と聞いたときは、スプリングコートは春夏の重要なアイテムになってきていると思っているので、力が入りました。春に着るアウターはショート丈になりがちですが、僕は着丈が長い方がシックな感じがしてコーディネートの幅が広がるので好きですね。春夏なので、コートをカジュアルに合わせる気分を表現しました。

――石川さんご自身は、春にコートを着られますか?

コートを着る機会は多いですね。今、自分の中で、洋服の中に日本的なテイストを取り入れることに凝っていて、着丈の長いアイテムが面白いと思っています。春から夏にかけてなら、涼しく感じる太いパンツに軽いコートを羽織るという禅僧のような和の雰囲気のある格好をすることが多くなりました。

今回のコートは、まだ肌寒い春先はもちろん、暖かくなっても着丈の長いアウターを合わせたいときに軽く羽織れて、日差しを防いでくれて、前を開ければ涼しく着られるという大人の男性にお薦めのものになっています。


コート 70,200円

シャツ感覚でサラッと着られる“シャツコート”のような雰囲気


――My Best Coat】についてご説明ください。

デザイン自体は<マーカウェア>春夏コレクションでも展開しているもので、ドロップショルダーのナチュラルな一枚仕立てのサラッとしたコートです。夏が近づいてくると着こなしからポケットがなくなってきますが、このコートはグルッと後ろまでポケットがあって、iPad miniぐらいならポケットに入れて出かけられます。

<マーカウェア>ではこの春夏シーズンからサスティナブルな素材に徐々に切り替えていて、コットンとウールはオーガニックを使っています。このコートの素材はコードレーンで、オーガニックコットンをスイスでコンパクトヤーンにした90番の糸を使って、日本国内で織っています。

ぱっと見では分かりづらいですが、触るとシャリッとした感じで、コードレーンの収縮性によりシボ感が出ていて、肌離れの良さに繋がっています。また、打ち込みの良い素材なので、肌と生地との間に空間ができて、風をはらんで清涼感も味わえます。


――今回のコートを中心にどういう着こなしを提案しますか?

肌寒さが残る3月は、薄手のニットを着て、この上にもう一枚コートを重ねたり、夏前なら太めのパンツにTシャツなど、日差しがきつくなるころまで長い時期着られると思います。自分でも欲しいコートですね。

今シーズン、<マーカウェア>は「Learning from JAPAN」をシーズンコンセプトに掲げているのですが、去年6月にコペンハーゲンのデザインミュージアムで、デンマークデザインに日本の工芸品が及ぼした影響を展示する特別展を開催していて、それがとても素晴らしかった。改めて日本の素晴らしさを海外で知りました。

和のモノは昔から好きで、いつか洋服の中で表現したいと思っていたのですが、今、着物の袷(あわせ)の感じで“VゾーンをVで重ねる”のが好きで、このコートもそんな着こなしで楽しみたいですね。

“良質なメディア”としての伊勢丹に期待しています


――今のメンズ館に対して感じていること、期待や要望などをこの機会にぜひ。

伊勢丹新宿店メンズ館は世界一の売場といって間違いないので、未来を作っていってほしい。ファッション業界を盛り上げる役割を担っていると思います。ネット販売など売り方の変革ではなく、お店というメディア=発信力を強化して、良質なメディアとしての伊勢丹を意識して発信してほしいですね。もっと本質的で、未来を見据えた新しいアクションを期待しています。

“衣食住”の中では食の世界が一番先に進んでいて、たとえばファストフードは1970~80年代に出てきましたが、ファストファッションは20年ぐらい遅れてきています。食では地球環境を考えて無農薬やオーガニックに世界的に取り組んでいますが、綿や麻など“衣の農業”にはまだ関心が薄いと言わざるを得ません。<マーカ>がそういう意識を持って素材に取り組むことで、服に興味を持ってもらうきっかけになるとうれしいです。未来に繋げていきたいですね。

石川俊介(いしかわしゅんすけ)

1969年、兵庫県出身。2003年メンズブランドmarkaをスタート。2009 年春夏シーズンにMARKAWAREを発表。紡績、縫製、加工等、洋服作りにおける全ての工程を日本国内で行う。そんなブランド設立当初に掲げた確固たる精神のもと、古きよき時代から培われてきた職人的ディティールワ ークに、独自のモダニズムとウィットを盛り込んだメンズウェアを発信。2014 年秋冬シーズンからはMARKAWAREの各アイテムに原料や工場名などその洋服に関わる 背景を明記したトレサビリティーカードを取り付け、品質を公開する取組みを行っている。

*価格すべて、税込です。

お問い合わせ
メンズ館6階=コンテンポラリー カジュアル
03-3352-1111(代打表)


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