2017.01.06 update

【イベントレポート】<EDWARD GREEN/エドワード グリーン>| 育てる楽しみ──<エドワード グリーン>愉しむための豊かなシューケア・ライフ

マネージング・ディレクター、ヒラリー・フリーマンが持参したクッキーに舌鼓を打ち、イギリスのスパークリングワイン、バルフォーで喉を潤す--はやくも3回目を迎えたエドワード グリーンのイベントはアットホームな雰囲気に満ちていた。顧客に囲まれてヒラリーがうれしそうに切り出したのは、チャーリー・ヴァイスとの久しぶりの再会についてだった。この会は自身のオフィスを会場として提供してくれるチャーリーの好意があって実現している。


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ヒラリー チャーリーとは10日ばかり前に会ったばかり。場所は、アトランタ。その街でみかけたチャーリーの足元にはすっかり馴染んだドーヴァーがあった。「スーツでもデニムでも自然に溶け込む佇まいがあって、1日歩き通しでもちっとも疲れない。長旅を守ってくれる頼もしい相棒なんだ」と終始ご機嫌だったわ。
 
所用を終えてヒースロー空港に降り立ったわたしはそこでまたチャーリーに出会った。エスカレーターを上がっていくかれを目にした瞬間、旅の疲れも忘れて走ったわ(世界を忙しく旅するチャーリーは一時もひとところにいない。気を許せば姿を消してまう)。ようやく追いついたわたしはとってもうれしくなった。だって、ドーヴァーの新作を履いていたんだもの! そのドーヴァーははじめてアンライニングとラバーソールの仕様を採り入れた挑戦的な一足。感想が聞きたくてはやるわたしにチャーリーは満面の笑みでいった。「フライトのようなリラックスしたい時間にはこれ以上の靴はないね」って。


「DOVER」197,640円
 
司会 ドーヴァーはもちろんのこと、来春のコレクションはいつもにもまして軽やかな印象です。
ヒラリー コンビの靴のことね。ブルーのツートンで表現したサウスウォルド、カメレオンとメイプルで染めたマルヴァーン3は自信作。どちらもDウイズの82ラストを採用。ぐっとシャープになったシルエットも見どころよ。コンビというと尻込みしがちだけれど、じつはちっとも難しくないの。履きこなすコツはたったのひとつ。その色を拾った服を着ればいいってことだけ。これまでワードローブになかった靴は間違いなく足取りを軽くしてくれるわ。ぜひ試してみてね。
 

左/「MALVERN Ⅲ」182,520円
右/「SOUTHWOLD」182,520円

濡れすぎた靴にツリーはご法度です
 
司会 本日はケアについて語っていただけるそうですね。
ヒラリー ええ。じつはあらたな発見があって、みなさんには一刻もはやく伝えたかったの。先日、ニューヨークで豪雨に見舞われました。迂闊なことにわたしはシューツリーを忘れていた。一時しのぎで新聞を突っ込んだわ。驚いたのは翌朝のことでした。きちんとシューツリーを入れたスタッフの靴にクラックが入っていたの。びしょ濡れの靴にツリーのストレッチは強すぎるのです。革を伸ばすのはある程度乾かしてからがいいってこのときはじめて知りました。足元を支えてくれるパートナーとするためには、それなりに手をかけてやらなければなりません。靴との付き合いは子育てに似ているわね。違うのは、子どもはいつか巣立っていくけれど、靴はずっと寄り添ってくれるところ。
司会 言い得て妙です。
ヒラリー 今日はわたしも一緒に学ぼうと思って、信頼できるシューシャイナーに来てもらいました。みんなでかれの話を聞きましょう。
 

──職人、登場
 
職人 ここからはわたしが引き継がせていただきます。
 
──テーブルに並べた靴をケアしながら、話がはじまる
 
この会に参加された方にとっては釈迦に説法でしょうが、トゥマッチな手入れはかえって革にストレスを与えてしまいます。デイリーケアはブラッシングで十分。埃はカビの大敵ですが、ブラッシングさえ欠かさなければ心配には及びません。
 

では、メインイベントの手入れに移ります。キーワードはずばり“曇る“。たとえば汚れ落とし。繊維の奥深くにまで入り込んだ染料はそっとやちょっとじゃ取り去れません。クロスに色がつかなくなるまで…と思っているとこの作業は一向に終わらない(笑)。目安は革の表面。曇れば汚れはほとんど落ちているのです。
 
──あっという間に手元の靴は輝きを消す
 
鏡面磨きの勘どころも革を曇らせることにあります。ツヤを失ったら毛穴にワックスが埋まった証拠。ここで、水を絡めます。そうすることで毛穴が広がり、ワックスがさらに割って入ります。さらに磨くことで表面が均され、輝くのです。
 

生地はネル生地がいいですね。エドワード グリーンの靴箱に入っているあれです。ハウツー本などでは着古したTシャツが推奨されていますが、靴磨きに使うには少々ヤワです。
 
──話が終わるころ、その靴は顔が映り込みそうなほどに磨き上げられていた


ヒラリー
ためになる話をありがとう。さてみなさん。われわれがつくる靴は、みなさんの手にわたったときはまだ未完成です。みなさんがかわいがってはじめて一足の靴になる。プロ直伝のポイントを参考にして、どうぞ、豊かなシューケア・ライフを。