2016.08.12 update

【インタビュー】<ALMOSTBLACK>中嶋峻太・川瀬正輝|2人の求道者が追求する、限りなく黒に近いネイビー

日本の伝統美を西洋的なデザインに落とし込むーー。このようなアプローチはもはや食傷気味だと思う方もいるかもしれない。だが、このようなミクスチャー精神・感覚を持ったデザイナーやプロダクトはいつだって我々を惹き付ける。その証左として、<オールモストブラック>というブランドを挙げることができる。昨年デビューしたばかりだが、瞬く間にその知名度を伸ばしているブランドだ。特に国内の”目利き”たち、セレクトショップのディレクターや、ファッションエディター、同業のデザイナーなどから熱い視線と期待を向けられている。


<オールモストブラック>デザイナー中嶋峻太(写真左)と川瀬正輝(写真右)

はじまりは、2つの”才能”の出会いだった。海外のデサイナーズブランドにてアシスタントデザイナーの経験を持つ中嶋峻太は、帰国後勤めることになった某アパレル企業で、こちらも様々なブランドでデザイナーとして研鑽を積んでいた川瀬正輝と運命的な出会いを果たすことになった。「出会いはまったくの偶然でしたが、ブランドの立ち上げは必然的でした。会って間もなく、これまで培ってきた文化的な素養、そして見据えている未来が近いなと感じました」。


中嶋はこう続ける。「入社して半年後には、ブランド立ち上げに向けて動いていました。ぼくはパリでファッションを学んで、さらにアントワープに拠点を置くメンズブランドにてアシスタントを務めていました。そこで強く感じたのは、日本文化の認知度の低さ。ジャポニスムがデザインとしてフィーチャーされることはありますが、結局それは西洋のフィルターを通してのジャポニスムであって、本物ではありません。向こうのファッション関係者で日本に強く興味を持っている人は稀で、非常に物足りなさを感じていました」

日本でメンズ服を作り続けていた川瀬もまた、「ゆくゆくは自分のブランドを持ちたい」と考えていた。意気投合した2人は「日本の文化と西洋服を融合させた」ブランドを立ち上げようと動き出す。「異なるものがぶつかることで衝撃、つまりエネルギーが生まれます。そんな力を持った服作り」を目指した。あたかも、2人が出会うことで生まれた衝撃やエネルギーの波形をなぞるかのように。


2015-16秋冬コレクションより


インパクトのあるデビューコレクションだった。”POST JAPONISM”というブランドコンセプトを掲げ、ファーストコレクションとなった2015AW。「WAVE」というテーマのもと、2人が慣れ親しんだニューウェーブやポストパンクといったカルチャーを、人間国宝でもある陶芸家・松井康成の作品世界と融合させた。川瀬はこう解説する。「松井さんの作品は縞模様が独特なんです。異なる色・質の粘土を練り合わせることで、美しい”地層”を持った作品が生まれます。その重層的な世界観を、パッチワークやコラージュで表現しました」

結果、ストリートとモードを繋ぐような、トレンド直結の”瑞々しさ”を湛えたアイテムが生まれた。コレクションルックのアートワークからも、そのエネルギーの飛沫がほとばしる。「コレクション製作までに、2人で何回もミーティングを重ねます。それまでリサーチしてきたもの、デザイン画などを持ち寄り、イメージが一つに収斂していくまで、意見を交わします。『あ、これは違うな』と感じたらお互いすぐに引きます。どちらかが違うと感じたら、それはブランドにとって違うことを意味しますので」(中嶋)



「ALMOST BLACK」=「褐色」。意訳すると、「限りなく黒に近いネイビー」。褐色とは黒く見えるほど深い藍色を指す。改めてブランド名について説明を求めると、川瀬は次のように応えてくれた。「平安の昔から明治時代まで、この濃いネイビーの色みは重宝されてきました。褐色は『かつ(勝つ)いろ』といわれ、縁起物として親しまれてきたんです」。そして中嶋が補足する。「白銀比という言葉を聞いたことがありますでしょうか。西洋の伝統美が黄金比で説明されるように、日本の伝統美は白銀比でなりたっています。法隆寺のような歴史ある寺社仏閣から、畳や風呂敷まで。実はドラえもんだって白銀比なんですよ(笑)」。掘れば掘るほど、日本文化は興味深く、2人へ迫った。

今秋冬は、戦後日本を代表する芸術運動のひとつ「具体美術協会」に焦点を当てた。1954年、前衛芸術家・吉原治良を中心に結成された団体だ。彼らは旧態依然とした芸術に「ノー」を突きつけ、偶発的なパフォーマンスや、瞬間的な感情の動きを切り取った抽象画など、新しいアートを模索した。

<オールモストブラック>が、たった2シーズンでここまでの注目度を集める理由が、一着のコートに凝縮されている。


このコートは、両肘部分と背面にざっくりと切り込みが入れてある。これは1955年の第一回具体美術展で発表された村上三郎の<紙破り>というパフォーマンスから着想を得ている。木枠に張られた幾枚ものクラフト紙を突き破って、通り抜けるというものだ。レイヤードの新境地と言っていいだろう、肘や背面からインナーが生地を突き破るような仕掛けだ。単に掲げるだけではなく、テーマを”具体”的に”ディテールとして表現する。この即物的かつコンセプチュアルな表現方法こそ、<オールモストブラック>の強みだ。普通は勇気がいる。実際に工場からは「ほんとうにハサミを入れるのか?」と確認があったそうだ。しかし、彼らはその壁をいとも簡単に突き破り、新たなものとして提示してみせる。



大手メゾンのトップデザイナーたちがその地位にあぐらをかくことなく、世界を”挑発”し続けるように、才あるデザイナーはいつだって大胆な試みで我々の価値観に揺さぶりを掛ける。<オールモストブラック>の2人からは、彼らに通じるような”センスのよさ”を感じ取れる。その大胆さを彼らの”若さ”に結びつけてもいいだろう。しかし、理由はどうあれ、服がかっこいいのだ。純粋に「着たい!」と思わせる服なのだ。

伊勢丹新宿店メンズ館での取り扱うことについて、「実際に見て、触って、着てみて、高揚感を感じて欲しい」と川瀬。「ぼくらの服が、日本文化をより深く知るきっかけになってくれれば」と語っている。一方の中嶋は「偉大な先輩たちと同じフロアにラックが並ぶわけです。ファッションが楽しいものだと、若い世代へ伝える”ルーキー”でありたいですね」と慎ましやかに願う。

2人の求道者が放つ、ポジティブなエネルギーの波動で包まれる。


Text:Morishita Ryuta
Photo:Suzuki Shimpei(Interview)

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