2016.06.29 update

【インタビュー】古田泰子(<TOGA VIRILIS/トーガ ビリリース>デザイナー)|前衛と現実。その狭間に在る創造力


<TOGA/トーガ>のメンズライン、<TOGA VIRILIS/トーガ ビリリース>が10シーズン目を迎えた。古田泰子が手掛ける<TOGA/トーガ>を97年に設立以来10年以上もの月日をかけてメンズをスタートさせたことには疑問を禁じ得ない。自ら身に纏うことのない服には抵抗があったのだろうか。

「頭のなかにある創造と、現実に着るという対極のすり合わせ作業をするレディスの行程と違い、現実に着られないメンズは“想像”でしかないという思いもあり、なかなかメンズを具体的に考えることがなかったんです」

そのきっかけはパリでのこと。

「ずっとパリの展示会場に足を運んでくださっていた栗野宏文さん(現ユナイテッドアローズ クリエイティブディレクション担当・上級顧問)に、あるときメンズをやってみたらどうですか?お声をかけていただいたのを覚えています。それから2シーズンほどの期間を経て、雑誌『BRUTUS』の別冊で栗野さんがディレクションするユナイテッドアローズ別注のメンズ服という企画に参加させていただきました。そこで初めて真剣にメンズ服と向き合ったことから、本格的にコレクションとして立ち上げることにしたのです」。


個人的に好きなメンズ服には確固たる想いがあった。

「1950年代のアルベルト・ジャコメッティやジャン・コクトーのスーツスタイルや装飾品の使い方に惹かれます。彼らのクラシックスタイルをベースとして、カルチャーとしてのパンクやテディボーイといったロンドンから発生した反骨精神の表れのカルチャーをミックスしています。こうすることで単にクラシックではない、そして前衛だけでもないスタイルが生まれる。古着も大好きです。それプラス、ヴィンテージといった要素もあるかもしれません」。

「対局にあるものを結びつけること、異なる2つを組み合わせること」は、古田にとって重要なキーワードとなっている。<トーガ>には、モードと古着、量産と一点ものなど、2つの価値を等価で評する革新性があるのだ。レディスにおけるクリエーションの発露は、ときに大胆かつ繊細、そして保守的クラシックと前提的モダンという2つの対極を融合することで新たな価値を創造してきた。ではメンズは如何に。

「メンズのコレクションは、まったく新しいアイテムや造形を紡ぎだす作業ではありません。シャツ、スーツ、レザージャケットといった定番服が、きちんとワードローブに揃っていることが重要だと考えるからです。コーディネートを考え、パズルを埋めていくようにアイテムを当てはめていきます」。

ダブルブレストのジャケットにはワイドパンツを合わせ、英国調のスーツにはドレスシャツ代わりにウェスタンシャツを着てリボンタイを結ぶ。拝絹使いのフォーマルスーツはTシャツにカマーバンドを添えて。トレンチコートとレザーライダーズの融合、ロング丈のテーラードコートにモッズコートを重ね、MA-1型フライトジャケットにフェイクファーをあしらうなど様々に展開する。TOGAを象徴するシルバーコンチョは多彩なアイテムに散りばめられ、アイコニックな意匠がレディスからも引き継がれている。

<TOGA VIRILIS/トーガ ビリリース>2016年秋冬コレクションより

「ベースとなるのは前にもあげた1950年代。それは大量生産時代以前のスタイルです。ジャケットは着丈が今より長く、股上の深いパンツを合わせます。ボトムズは初期から2タックで、シルエットはテーパードしています。女性の服を作るのとは違った問題点が表れます。たとえば素材。こんなに透ける素材は使えないとか、もっと硬い素材を使ったほうがいいとか。男性服のルールに則った細かいことを要求されます。前衛として考えれば透ける素材を好きに使ってもいいかもしれません。でも<トーガ>のメンズは逆に美徳して残したいのです」

男の日常に存在すべき服を考え、必要に応じて揃えていくという極めて現実的な考え方がそこにある。クリエイティビティに溢れるレディスの考え方とは相容れない。誰も見たことがない、斬新なフォルムの服は必要とされない。だが現実主義的な服は面白みに欠ける。夢のない生活衣料ではなく、ファンタジーあるリアルクローズこそ、現代の男の美意識に沿う。

「ごく普通のOLさんが<トーガ>の服を着てみると楽しいと思うんです。普段の生活にあって、ほんの少し気分が高揚できる、そんな服をつくっているつもり」と自身のレディスのコレクションについて古田は言う。「でも男性は伝統文化に保守的であるところにも美学があるように思う」とも。

<トーガ ビリリース>は、トラッドとモードの境界線、さらに年齢、職業、国境をも超えてクラシックとアバンギャルドとに橋を掛ける。そして保守と前衛、現実と幻想の間で静かに佇んでいる。

古田泰子
1971年、岐阜県生まれ。1994年、エスモードパリ卒業。97年に<TOGA/トーガ>を立ち上げる。05年、パリに発表の場を移し、ファッションウィークに参加。2011年、メンズライン<TOGA VIRILIS/トーガ ビリリース>がスタート。この6月29日(水)から、伊勢丹新宿店メンズ館にて、初のポップアップショップが展開される。

<TOGA VIRILIS/トーガ ビリリース>ポップアップストア
□6月29日(水)~7月5日(火)
□メンズ館2階=インターナショナル クリエーターズ


Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Ozawa Tatsuya

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