2016.05.06 update

【インタビュー】 <ABASI ROSBOROUGH/アバシ・ロズボロー>|未来のスーツを生み出すユニゾン


現代人のスーツは、決して貴族の執務着ではない。軍人の正礼装でも、ましてやキツネ狩りの装束でもない。スーツもジャケットもコートもみな、その出自は斯くの如く。しかし現代のクラシック服は自宅から勤務先までの通勤時間と、海外へ飛ぶ機内で快適に過ごせ、オフィスで椅子に座って窮屈でなく、レストランラウンジやクラブなど社交場にも相応しいモダンスタイルでなければならないはずだ。テーラードの意匠は歴史が築き上げた「人間の体を最も美しく見せるデザイン」だとしても、現代の都市生活を心身ともに快適に送れなければ、それは服と言う名の拘束着でしかない。

旧態然たるクラシックテーラードに疑問を投げかけ、新時代のクラシックを生み出そうとするブランドがある。NYの<アバシ ロズボロー>だ。ニューヨーク・ファッション工科大学(FIT)で出会った2人は卒業後、アブドゥル・アバシは<エンジニアード・ガーメンツ>に、グレッグ・ロズボローは<ポロ・ラルフローレン>に勤めることとなる。2人でブランドを立ち上げるに至ったきっかけは、あるときグレッグが機内で目にした”奇妙な”光景にあった。


「フライトアテンダントの女性が乗客のスーツケースを頭上の棚に仕舞おうとしているとき、それを手伝うスーツを着たサラリーマンの男性がいました。彼は荷物を持ち上げようとしたのですが、ジャケットが窮屈で肩が上がりませんでした。わざわざジャケットを脱ぎ、荷物を上げて、またジャケットを着たんです。それを見ておかしいと思ったんです。そのジャケットが、現代人の生活に適していないことに。」

グレッグは、すぐさま友人のアブドゥルにそのことを伝えた。「現代人の多様なライフスタイルに合った機能的な服を作りたい」。デスクに向かいPCで仕事をこなし、クルマや鉄道、飛行機で長時間移動する、そんなときでも快適に過ごせる服こそ、現代のクラシック服ではないだろうか。その頃、アブドゥル・アバシも同じ思いを抱いていた。メンズウェアのリエンジニアリング(再構築)に興味を抱いていたアブドゥルは、古着のディテールデザインから必要なものと不要なものを選り分ける工程から、消えゆくデザインと未来に残るデザインを意識していたのだという。


「日本のブランドに携わっていたこともあり、細部を大切にすること、ディテールにこだわることの重要性はよくわかっていました。FITを出てからもグレッグと会う度に、ジャケットの袖の飾りボタンはいらないよねとか、ノッチドラペルの切れ込みはなぜ必要なのかなどを話し合っていたんです」。

グレッグも古着には造形が深い。

「古い服にも、時代ごとの機能性を考慮したデザインがたくさんあります。ポケットの形状が身体のラインに沿うように曲線を描いているのもその一例ですし、ジャケットを背負うためのストラップが付いたものもあります。そういったニーズへのソリューションとして服のディテールを提供することに興味があったのです」。


2人が出した回答は、脇下をストレッチ素材に切り替えた一着のジャケットだった。腕の上げ下ろしが容易で、しかもデザインとして成立するジャケットが<アバシ・ロズボロー>のファーストコレクションとして誕生した。

2人が考える現代のクラシック服は、機能性を追求した結果だけではない。そこには様々なカルチャーの要素も取り入れられている。アメリカを象徴するベースボールシャツや和装を思わせる前袷のジャケット、中東風のチュニックシャツもある。


「クラシックな服がなぜイギリス発祥でなくてはならないのでしょう。アメリカや日本、その他の国にも服の歴史はあるはずです。私達の服はNYブランドではなく、グローバルブランドでありたいと考えています。世界中の良いものを取り入れ、現代や未来のクラシックを生み出したいのです」。

バスケットボールに明け暮れたグレッグ・ロズボローは、スコットランドにルーツを持ち、空軍のヘリコプターエンジニアとしての経験を持つアブドゥル・アバシの祖父はナイジェリアからの移民であった。ひとりの偉大なるデザイナーには、国籍も文化も人種も越えた新たな時代のクロージングを創り出す可能性はない。だがグレッグ・ロズボローとアブドゥル・アバシには、2人だからこそ描ける無限の未来がある

「昔ながらのクラシックがダイヤル式の黒電話だとしたら僕達のクラシック服はiPhone。5、6、7の前にSEが誕生し、やがては10、20、30、そして100sと続いていくのです」


アブドゥル・アバシ
1980年、ワシントンD.C.生まれ。35歳。アートやデザインに興味がありながら、大学に行く費用を稼ぐため、高校卒業後は米空軍に入隊。アパッチヘリコプターのエンジニアとして約8年勤務する。その後FITに入学し、ファッションデザインを学ぶ。卒業後は鈴木大器氏率いる、エンジニアード・ガーメンツに勤務

グレッグ・ローズボロー

1983年、アイオワ州生まれ。32歳。学生時代はバスケットボール選手として活躍、NBAを目指す。18歳のとき大会出場のため初めて訪れたNYで、高級百貨店バーフドルフグッドマンに足を踏み入れ、ファッションの最先端に感化された。アリゾナ大学でビジネスを専攻後、FIT入学。卒業後はラルフ・ローレンに勤務するが、2013年、FITの同級生であったアブドゥル・アバシとともにブランドを設立。


Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Okada Natsuko

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