2016.02.27 update

【インタビュー】ロバート・タテオシアン|男の人生を豊かにしてくれるもの

バンカーの職を辞し、タテオシアンを立ち上げて25年が経った。現在は70人のスタッフを抱え、お膝元のロンドンに5つ、故郷のアルメニアにも1つ、店をかまえる。「バンカー時代の同僚に比べれば収入は少ないけれど、薄毛に悩まされずにすんでいるし(笑)、人生はハッピーだよ」


ロバート・タテオシアン
クウェート生まれ。ウォートン・スクールを卒業後、投資銀行で働いていたが、1990年11月に宝飾デザイナーに転身。自身の名を冠したブランド「タテオシアン」を立ち上げた。 創業当初はカフリンクス専門ブランドだったが、後にブレスレットや指輪なども手がけている。

10年連続でMBAランキングの1位に輝いたビジネススクールの名門、ウォートン・スクールを卒業し、ロンドンの投資銀行に就職したロバート・タテオシアン。だれもがうらやむ順風満帆な船出だったにもかかわらず、いつのころからか焦りにも似た感情が芽生えるようになった。このまま人につかわれる立場でいいのだろうか、と。
ある日、いつものようにもてあます思いが頭をもたげてきたとき、ロバートは触るともなしに触っていた袖元のカフリンクスに意識が向いた。

「カフリンクスはシティ・オブ・ロンドンで働く男に許された唯一の遊び心です。にもかかわらず売場に並んでいるのはどれも退屈なものばかりだった。素人のわたしでもなにか面白いことができるかも知れないと、そう思ったんです」

すでに家もクルマももっていたし、そして守るべき家族もなかった。20代のわたしを踏みとどまらせるものはなにもなかったのですと笑うロバートはさっそく、トレードショーを回りはじめる。そこで出会ったのが地球儀のメーカーだった。

「この地球儀を小さくできないか。わたしは自分のアイデアにひどく興奮しました。メーカーの担当者は鼻で笑いましたが、500個買うといったら目の色が変わりました(笑)」

こうして、軸受けのなかでぐるぐる回る地球儀と、時計をモチーフにしたカフリンクスが完成した。それは従来のカフリンクスとは似ても似つかないものだった。



おもちゃ箱の宝物を袖口に


タテオシアンのコレクションをみていると、子供のころ大切にしていたおもちゃ箱を思い出す。

「25周年でつくったのは、ガンメタルで衣替えしたアイコンの地球儀や日本の太鼓橋をモチーフにしたもの。そうそう、新しいところでは手足が動くスワロフスキーの亀やスウェーデンに落ちた3万年前の隕石も気に入っています。男はいくつになってもメカニカルなものや未知の世界が好きですから」

その発想、着眼点もさることながら、おもちゃ箱の宝物に紳士が身につけるに足る品を与えているのに舌をまく。それはもちろん、希少な貴石を惜しげもなくつかっている、ということもあるけれど、妥協しないモノづくりがあってこそだろう。


「まったく新しいものをつくろうとするのですから、引き受けてくれるところを探すのから一苦労です。しかし、一歩一歩歩んできて、現在は10のファクトリーが協力してくれています。いずれもゆうに10年を超える付き合い。それでも新作開発はかんたんではありません。いまなお1年以上かかることはザラです」

7人のインハウスのデザイナーを抱えるようになった現在も最初のアイデアはみずから出し、仕上げまで目を光らせる。

「それぞれのセクションで任せられる人材は育っていますが、自分の会社ですからね。トランクショーに立つのもわたしの担当です。世界を旅することは、そのままデザインのインスピレーションになります」

カフリンクスはたとえノータイでも身につけるだけで紳士になれる、個性をあらわすフィニッシング・アイテム。もっと自由でいいんじゃないかというわたしの思いは間違っていませんでした――始終控えめだったロバートの頬にほんの一瞬、赤味がさした。

Text:Takegawa Kei
Photo:Hishinuma Isao

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