「佐藤バイヤーと100周年のイベント用に集めたマリネッラのアーカイヴを見ていたんですね。そこに、1955年に作った、24オンスの英国製プリントシルクのタイがあったのです。これを復刻しよう、という話になりまして、生地から忠実に再現しました。当時の大剣幅は今の物より0.5mm細い8.5cm。逆に小剣は少し太いんです」

イセタンメンズ限定で販売された復刻タイは今も人気を博している。長さ140cmほどのタイは、160cm台の身長の男性には最適だと予想しなかった反響もあった。<マリネッラ>のタイを上手く結ぶ方法は?

「まずはプレーンノットを50回お試しください。使っていくうちにタイは自然と伸びてきます。その時はウィンザーノットで結び、長さを調整します。いずれにせよ、大剣と小剣の長さを同じに揃え、ベルトに少しだけかかるような見え方がベストだと我々は考えています。鏡の前で調整しながら結んでみてください。」

世界最高級のタイと称される<マリネッラ>。日本で初めて販売されたのは約15年前の伊勢丹、当時の「男の新館(現在のイセタンメンズ)」時代から。

<マリネッラ>の日本での歩みは伊勢丹とともにある、というマウリッツィオは、ナポリのお店では毎日朝6時半から店頭に立つ。また、伊勢丹でのイベント開催時も開店前の朝礼から参加し、お客さまを他のスタイリストとともにお迎えにあたる。イタリアで文化勲章を受けたほどの人物だが、そこにエゴは一切感じられない。感じられるのは、他者への気遣いだった。

「タイとは他者へのリスペクトを表現するものなんです。現代はタイが必要とされるオケージョンは減ってきています。ファッションの自由化。ジーンズでオペラを観賞することも許される時代。だからこそ、他者やその場へのリスぺクトを表現するためのものとしてタイがあると思うのです」

他者への敬意を言葉なくとも示すことができるタイ、しかも最高級のタイならその敬意はより大きなものとして受け入れられるはずだ。

マウリッツィオ・マリネッラ
1914年にイタリア・ナポリで創業した<マリネッラ>の3代目当主。<マリネッラ>の代表的アイテムであるハンドメイドタイは、独特なハリを持つ反面、柔らかく皺の回復力のある英国産のヘビーオンスのプリントシルクを共地で使用。伝統を受け継ぎ、熟練職人による丁寧な昔ながらのハンドメイドによる仕立てを厳密に守っています。セッテピエゲをはじめ高度な技術が集約されたタイの締め心地も格別。歴代のイタリア大統領を初め、アメリカのバラク・オバマ大統領、フランスのサルコジ大統領にも愛用されていることで有名。

Text:Ogiyama Takashi
Photo:Ozawa Tatsuya

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