2015.10.31 update

【インタビュー】竹ヶ原敏之介(AUTHENTIC SHOE & Co./オーセンティック シューアンドコー 代表兼デザイナー)|自ら探り、検証を重ねる靴づくり。


<AUTHENTIC SHOE & Co./オーセンティック シューアンドコー>、<foot the coacher/フット ザ コーチャー>、<SPECTUSSHOECO./スぺクタス>、<FOOTSTOCK ORIGINALS/フットストック オリジナルズ>そしてレディースブランド<BEAUTIFUL SHOES/ビューティフル シューズ>と、現在5つのブランドを展開するシューズデザイナーの竹ヶ原敏之介さん。その歩みはまさに独立独歩、そして現在も絶え間なく靴づくりを追求し続けています。


靴への興味は中学・高校の頃からありました。高校生の時にはトリッカーズを通学靴として履いていました。

美大進学で上京して、すぐに靴づくりを始めました。構造がわからないので手持ちの靴を分解して、どんなつくりになっているかを探りながら、革を買ってはペンチとボンドでつくる。大学には行かず靴ばかりつくっていました。最初は知識が全くなかったので木型を使わず、袋状になんとか履けるものをつくっていました。ある日、友人からもらったロンドン土産の中に、レコードと一緒に木型があって、「どうやら木型というものがあるらしいよ」と。そこで初めて木型の存在を知り、浅草に木型を買いに行きました。


19歳の頃、つくった靴を何足か持ってバイヤーやデザイナーの方に見ていただいたんですが、みごとに酷評でした。自分の無力さと知識のなさを痛感して、お金をかき集めてイギリスに渡り、ノーザンプトンの靴博物館で靴に関する資料本を探し、ロンドンのコードウェイナーズ・カレッジの図書館で靴づくりの教科書を買いました。日本に戻って教科書を自分で訳して、それを見ながら自分なりのレシピをつくり、独学で靴をつくっていきました。22歳ぐらいのときにつくった靴が50足ほどになったので、渋谷で友人のファッションデザイナーと一緒にインスタレーションとして展示しました。

そのエキシビションには靴業界の方も来てくれて、さまざまな靴の企画のオファーをいただくようになり、平行して自分のブランドも続けていました。それからしばらくして英国<トリッカーズ>のファクトリーで働く機会があり、そこではハンドソーンの部門でアシスタントとして働きました。帰国してからすぐに自分のブランドを再開し、ハンドメイドに加え、工場生産でも靴をつくるようになりました。


──90年代、英国から戻られて自身のブランドを展開していく過程で、それまでのご自身名義から、<オーセンティック シューアンドコー>や<フット ザ コーチャー>などのブランド名を冠した靴づくりに変わっていきますね。

自分の名前を表立って名乗るのには、抵抗がありました。まずは物ありき、靴ありきで、自分はあくまでそのつくり手なだけだと思っていましたから。それは今も変わらないです。靴においては、履き手と靴が第一だと。



<フット ザ コーチャー>は今年で15周年です。靴づくりを始めた頃は、自分が好きだったこともあってドレスシューズばかりつくっていたのですが、その一方で自分自身はスーツスタイルが少なく、普段履きたいと思う靴をつくろうと思ったのが、<フット ザ コーチャー>をはじめるきっかけでした。その他、アメリカBoa Technology社のレーシングシステムを使った<スぺクタス>、スタンダードシューズの<フットストック オリジナルズ>がありますが、洋服ブランドの多くで、ひとつのコレクションの中でジャケットやシャツ、パンツ、カットソーといったアイテムのカテゴリーがあり、さらに各カテゴリーのなかで様々なデザインが展開されていますが、私たちのブランド展開の仕方はそれに近いのかもしれません。靴のコレクションのなかで、ドレスシューズのカテゴリーもあれば、カジュアル、スニーカーもあるといったように。


──靴づくりにおいて大切にされているポイントは、何でしょうか。

一番大事にしているのは、履き心地と、足の健康でしょうか。いつも思っているのは、クオリティとしてより良い靴を提供するために、時代性や流行を取り入れてデザインすることが、自分の使命というか、仕事だということです。履きやすさや健康を犠牲にしてまでデザインに傾倒することはしない。そして履き心地にとって重要なのは木型とソールのバランスです。靴とは根源的にいえば“ソールを履かせる道具”なので、ソールは特に大切だと思っています。公共のテスト機関に協力をお願いしながら、デザインや製作と同じくらいの時間を設計や素材の検証に充てています。そしてその結果を吟味したうえで製作にあたります。例えば<フットストック オリジナルズ>に使用しているオリジナルの「IMPERIAL SOLE®」は素材から選び、ソール部分とヒール部分で配合を変えることで耐摩耗性と屈曲性を両立させました。こうして蓄積された知識やノウハウを、今後もさまざまなかたちでアウトプットしていきたいと思っています。


Text: 菅原幸裕 Yukihiro Sugawara
Photo: 橋本裕貴 Hirotaka Hashimoto


竹ヶ原 敏之介

美大在学中に靴づくりをスタート、1994年にシューズブランド<竹ヶ原敏之介(現・オーセンティック シューアンドコー)>を設立。1998年に渡英し、<ジョージコックス>や<トリッカーズ>のデザインを手掛ける。帰国後、新たに<フット ザ コーチャー>を立ち上げ、現在に至るまでレディスシューズブランド<ビューティフル シューズ>をはじめ、<スぺクタス>、<フットストック オリジナルズ>と計5ブランドのシューズデザイナーとして活躍している。

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