2018.12.05 update

ネクタイをしないネクタイ名人に訊く、逆境に咲く珠玉のタイブランド<フランコスパダ>の拘り。

永島服飾は日本を代表するネクタイメーカーだ。創業は1947年、戦後間もない日本の復興期にファッションという言葉すらまだなかった時代に、プリントタイの製造を開始したのは創業者の永島武雄氏である。その奮闘の姿は書籍『帰還 ダモイ 酷寒のシベリアを勝ち上がったのは「まぬけ」と呼ばれた男だった』(日経BP)に詳しい。

創業者の意志を継ぐ現在の永島服飾が展開する新作ネクタイについて、クリエイティブ・ディレクターの木梨修一さんに話を伺う機会を得た。





<フランコスパダ>などを展開する永島服飾のクリエイティブ・ディレクター、木梨修一さん


「<フランコスパダ>は生地の7割を京都の精鋭な機屋で織っています。京都は俗に緯糸が21/3片(ニイチノサンカタ)と呼ぶ薄手の絹織物が中心で、これは和服の帯地に使う絹織物に由来します。非常に繊細なので光沢とドレープが美しいのが特徴的なのです。イタリアのシルクは緯糸が21/4片、イギリスのシルクは緯糸が21/7片というように横糸が太くなるにつれて生地も厚手で固くなります。さらに京都では糸にテンションを掛けないよう、低速で織ることで絹糸の光沢を消しません。仕上がりには潤うような艶が浮き上がるのです」。


ネクタイ 各10,800円
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今季のコレクションはスモーキーメランジと呼ばれる色調を打ち出している。オリジナルの撚糸を作成し、中間色の糸にネイビーやチャコールの糸を織り交ぜることで、少しくすんだような色合いを表現しており、パステルやビビッドカラーとは異なる落ち着いた印象を醸す。



異なる2色の糸(メランジ糸)を使用しスモーキーカラーを表現したアイテム。サックス・ピンク・グレー・ゴールド・グリーンの5色をベースにトレンドのスモーキーカラーで表現。グレイッシュな見た目と独特な落ち着いた色出しで季節問わず使用できるアイテムに仕上げた。


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トーンを落とすことでネイビーやグレーなど、ビジネススーツとの相性がよくなるのだという。ピンクやグリーンなどのトレンドカラーも、単色パステルよりも合わせやすそうな色合いに仕上がっている。


サクサン糸とフィラメント糸を組み合わせることで、独特の質感と色味を表現。大剣8cm幅の剣先ニットにすることで程よいボリューム感があり、ジャケットやスーツにも合わせやすい万能的なニットタイだ。



ネクタイ 各11,880円
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「剣先のあるニットタイ、こちらは東京・八王子で編まれたものです。国内でニットタイを編めるメーカーは、もうここ一軒しかないんです。剣先があることで、スーツにも合わせやすく、織物のネクタイしかしたことのない方でも移行しやすいはずです。柞蚕糸と呼ばれる希少な糸とフィラメントの緯糸を合わせて編み上げることで生まれる独特の光沢とざっくりした風合いが特徴です。

ブランド名から、イタリアブランドと思われることもあるという<フランコ スパダ>。タグに「TOKYO」と明記されているのは、ジャパンメイドの矜持でもある。「フランコ」は正義・正統、「スパダ」は剣を意味する言葉。男の胸元に正義の剣を。こだわりの素材使いは、インポート生地にも及ぶ。

 
ネクタイ 各14,040円
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「こちらはもうひとつ<ウィーバーズレーン>というコレクションになります。イギリスに現存するシルク織メーカーは2社しかないのですが、そのうちのひとつバーナーズのシルクを使っています。ヘビーオンスのジャカード生地は、特殊な織機を使っていて、経糸の本数が1万2000本ほど打ち込まれています。日本の限界高密度が1万本程度、イタリアではもう少し入りますが、イギリスほどではありません。このしっかりした生地感は、打ち込みの良い英国生地のスーツに似合うものです」。


イギリスのバーナーズ生地を使用し、京都で縫製したジャパンメイド。バーナーズ特有の質の高い光沢とボリュームで高級感があり、裏地は絹を使用。モダンブリティッシュテイストを表現した一本に。

 


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厚地のシルクにはあえてソフトな芯を使って結びやすく解けにくいように組み合わせている。ノット下にカーブが出るように、ストレートな形状ではなくセミボトル型になっているのも特徴的だ。「最近のファッションの傾向もワイドラペルが人気だったり、ダブルが注目されていたりしますので、ネクタイもそれに準じているんです」。

プレゼンテーションから一本のネクタイに掛ける想いが伝わってくる。こんなにも手を尽くした服飾小物を「暑いから」の一言で使わないのは、あまりにもったいない。手仕事のスーツやシャツ、ジュエリーや時計などと同等に扱うべきシルクの工芸品・ネクタイを愛でる、紳士の文化を継承していくことの大切さを強く感じた時間だった。しかしこの日、ノーネクタイの木梨さん。スーツにタートルニット姿である。


「靴好きな人が、その日に着る服は靴から決めるという話がありますが、ちょっと無理があるような気もします(笑)。私はネクタイ屋ですがその日締めるネクタイから服を決めることはありません。やはりスーツ、ジャケット、シャツがあってのネクタイだと思いますから」。


スーツは某有名セレクトショップのオーダー。質の良いグレーフランネルはフィッティングも見事で、ゆるみのないタートルネックに着こなしの上手さが滲む。それでいて着慣れているからだろう、じつに肩の力が抜けている。大企業でさえネクタイを外したオフィスカジュアルを推進する時代、ネクタイ業界にとって順風が吹いているとはいえない。だが業界内にあきらめムードはひとつもなく、新たな提案や素材作りにも意欲的だ。むしろネクタイが“必需品”ではなくなったことから、自由でクリエイティブなモノづくりができているのかもしれない。ネクタイを知り尽くした人物ならではのスーチングは、中島敦の『名人伝』に描かれた、弓をとらない弓の名人・紀昌を思わせた。



 

Photo:Natsuko Okada
Text:Yasuyuki Ikeda

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