カスタマーが生んだシャツ


「タイを外して友人と会うときや呑みに繰り出すとき。そういうシチュエーションを考えると、それまでのシャツはたしかにクラシックにすぎた。わたしがそのアイデアをカタチにすることができたのは、カスタマーの存在があったから。かれらの声がこのシャツを生んだのです」

ドレスシャツで培った職人技、上質な素材をベースにした一枚はナポリ・シャツの進むべき道もつくった。だれだってみずからの手柄にしたくなるところだが、パオロはあくまでもわたしは脇役にすぎませんとどこまでも控えめなのだった。

そうはいってもデザインを描く人間がいなければはじまらないわけですからとなおも食い下がると、「良い家族のもとに生まれ、良い教育を受けた。ファッションの学校ではありませんよ。シャツづくりの学校は、工房です。そして美しい太陽と海に囲まれて育ちました。いってみれば環境のなせる業では」と答えた。


〈フィナモレ〉の創業は1925年。パオロの祖母であるカロリーナが数人のお針子さんとともに立ち上げた工房がそのルーツだ。「凄腕の職人というわけではなかったけれど、たしかな仕事ぶりで信頼された」母の工房を息子のアルベルトが会社組織とし、現在はアルベルトの長男シモーネが代表、次男のパオロがデザイナー、三男のアンドレアが工場の責任者を務める。

代替わりには摩擦が生じるものだが、その手のゴタゴタは一切なかったという。パオロの構想を聞かされても、二代目は二つ返事でこれをやらせた。兄弟の役割分担もしぜんと決まっていったそうだ。3人は与えられた仕事を、肩に力を入れず、地に足をつけてこなしてきた。

なるほどそのシャツはありそうでなかっただけで、よくよくみればいかにもナポリ的であり、気負いや衒いのようなものは感じられない。

Text:Takegawa Kei
Photo: Eto Yoshinori

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