2016.12.09 update

【対談】島地勝彦×坂本和也|水中を描く若き画家との邂逅に微酔する夜。(1/2)

この日、サロン・ド・シマジに一人の男がやってきた。「スランジバー!」。島地がスパイシーハイボールのグラスを交わした相手は坂本和也。画家である。


「銀座の文化を新宿に」を合言葉に、この秋から島地は伊勢丹メンズで日動画廊のコンテンポラリーアートを紹介している。第一弾は写真にタトゥーアートを施したジャン・リュック・モーマンの作品を、第二弾では日本人画家・坂本和也の絵画を展示している。

島地「nca(*nichido contemporary art)で見た絵に圧倒されてからというもの、貴方に会いたいと思っていたんだ。いろんな絵を見てきたが、こんな絵は見たことがない。久しぶりに日本人の絵に心動かされたよ。藤田嗣治以来だ。私の家がもっと広かったら、間違いなく買っていたがね。凄い才能だ」。

島地が惚れ込んだ絵とは、坂本の代表作『Landscape gardenig』。150号キャンバスを3枚連結させた5.5×2.3mの画面いっぱいに、水草を題材に独自の世界観を描いている。


“Landscape gardening”
2014, Oil on canvas, 227 x 545 cm
©kazuya Sakamoto
courtesy of nca | nichido contemporary art

島地「なぜ、あんなに大きな絵を描こうと思ったんだね?」
坂本「とにかく大きい絵を描きたくて…」
島地「5.5mもの?」
坂本「スタジオが6mしか無かったので…」
島地「(笑)。それなら次は体育館で描くといい。殺風景な体育館が緑でいっぱいになるだろうよ」。


圧倒的な緑の世界は群生する水草を描いたもの。「美しいジャングルを見ているようで、何十分でも、何時間でも見ていられる」と島地は評する。
「いまアトリエで、緑に囲まれている」という坂本の言葉に島地は、「貴方は幸せ者だ。緑に心が癒やされるだろう。緑の中に住んでいると気分がいいだろう」と上機嫌。「いつかあの絵を見た大金持ちが、自分の家の壁を全部水草にするだろう。俺が保証する。あんたは絶対に有名になる!」。太鼓判を押す。

水草は、描き続けることに乾き枯れた画家・坂本の心を癒やす故郷・鳥取県米子市の自然を置き換えたものだった。都会に暮らす若い絵描きが心を寄せた水草の飼育(アクアリウム)。そこから湧き上がる生命の息吹を、勢いある筆致で描ききる。


坂本「大学で名古屋へ来てからというもの、抽象画など色んな絵を描いていたんです。でも実感が伴わないまま、なんか腑に落ちなくて……。もういいや、と飼育していたアクアリウムの絵を描き始めたんです。絵を完成させたら田舎に帰ろうと思っていました」。

アマゾンフロッグピット、スクリュー・バリスネリア、etc.。水草の名はわからなくとも、その圧倒的な画力はキャンバスから伝わってくる。写生ではなく、心に浮かぶまま筆を走らせるのだ。ときに下書きすることもあるが、ときにはいきなり絵筆を握るという。思いのまま、趣くままに、キャンバスは緑に埋もれる。

坂本「あの大きな絵は4ヶ月かかりました。ようやく描きあげた時は、嬉しかったというよりも、なんとなく寂しかったですね。なんだか、恋人と別れるときがきてしまったような気がして」。
島地「描いてるときは、絵は自分だけのものだ。恋人のように思うのだろう。しかし、またすぐ新しい恋人が出来ただろう」。
坂本「…はい。しかも同時進行で何枚も描くので…」
島地「ハッハッハ、ずいぶんとモテるではないか!」

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