2017.01.25 update

【インタビュー】アンナ・マトゥッツォ|針と糸、そして献身。(1/2)

ナポリ随一のカミチェリア、アンナ・マトゥッツォ。彼女がそのような賛辞をおくられるにいたったのは、そもそもの才があったのは確かだけれど、なによりもシャツをつくることが人生そのものだったからだ。その実力はあのロンドンハウスもみとめた。


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アンナのアトリエはナポリの海に面した古びたマンションにある。

扉を開ければ、目に飛び込んでくるのは壁面の棚に所狭しとならんだ原反だ。そのほとんどが世界最高峰の呼び声も高いカルロリーバとデイビッド&ジョン・アンダーソン。イセタンメンズのバイヤー、佐藤巧をして、両銘柄がこれだけ揃っているアトリエはみたことがないと嘆息せしめた。

細番手のコットンは繊細すぎてミシンに耐えられない。手縫いが前提になるとはいえ、街場の工房といった風情のアンナに数は望むべくもない。ファブリックメーカーにとってはたとえ注文が少なくても補ってあまりある魅力があるのだ。


ナポリのシャツは手縫いがみどころだ。身体の動きを妨げず、しなやかに寄り添う──肌に直接触れるシャツはこの効用がじかに伝わる。そんなシャツの性格も手伝って手縫いの文化はすこやかに芽吹いた。幸いなことにナポリはこの文化を担うに足る、手先の器用な職人にも恵まれていた。経済格差が生んだ落とし子はみごと華開いた。

なかでアンナが頭ひとつ抜けた存在、どころか、頂点に立つ存在といわれるのは、シャツづくりの要諦をだれよりも知悉しているからだ。それは生産態勢ひとつとってもあきらかである。



「現在、工房で働いてくれるのは7人。みんな女性ね。もちろん男性だって構わないけれど、繊細さと忍耐力がいる仕事ですからね」

アンナはナポリ仕立ての祖といわれるロンドンハウスが礼をもって接し、シャツ部門を長いこと任せたカミチェリアだ。彼女がこれはと見込んで徹底して鍛えたチームに不足のあろうはずがない。しかしそれ以上に見逃せないのは、精神的支柱としての役割だ。

A needle and thread. Dedication(針と糸。献身)──公式サイトになんども登場するフレーズは、シャツづくりがアンナの人生と同義だったことを意味しており、彼女の矜持はアトリエの隅々にまで息づいている。

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