2015.10.30 update

【インタビュー】山本真太郎(KIDS LOVE GAITE/キッズ ラブ ゲイト デザイナー)|僕のモノ作りの原点は 90'sイーストロンドンにある。

80年代のポスト・パンクから90年代ニューウェーブへと移行する過程のロンドン。イースト地区にあった伝説のショップ「House Of Beaty And Culture」では、様々なクリエーターが出入りして異様な空気を放っていたはず。この街に、ひとりの日本人青年がどっぷりと浸かっていた。彼の名は、山本真太郎。いま日本で注目を集める、新進のシューズデザイナーだ。


90年代のロンドンが、僕の遊び場だった

15歳で渡英して、最初は南部の街で学校に通っていたのですが辞めてしまって、当時従兄弟が住んでいたロンドンに転居しました。彼が当時、ロンドンのコードウェイナー(靴の専門学校)に通っていた木村大太さん(シューズブランド<ダイタキムラ>デザイナー。ロンドン市内に自身の店、オールド キュリオシティ ショップを営んでいる)と友達だったんです。で、彼らと遊ぶうちに、「ハウス オブ ビューティ アンド カルチャー」でイアン・リードやジュディ・ブレイム、クリストファー・ネメスらと出会って。80年代のロンドンでシューズデザイナーとして異彩を放ったジョン・ムーアの系譜を継ぐ彼らと毎日のように遊び、モノ作りを経験したことが、僕のロンドン生活の大部分を占めています。


当時はソーホーに住んでいたこともあり、周りには金のないアーチストたちがたくさんいました。トラディショナルなものを使い続けるという習慣は、階級社会が根強いイギリスでは富裕層のもので、若者たちは創意工夫に満ちあふれていたように思います。パンクやニューウェーブといった新進気鋭が生まれたのもロンドンからですし。僕自身、ロンドンのクラシックでトラディショナルなものと、誰も見たことのないアウトスタンディングで新しいものが生まれるという相反するカルチャーのなかで、本能にやりたいことが何かを探していた毎日でした。靴作りはそのときに覚えたんです。まさか将来自分がシューズデザイナーになるなって思いもしなかったけど。


ロンドンカルチャーとファッションと

当時のスタイルですか? トップスは短めでダボッとしたニットやブルゾンに、<クリストファー ネメス>のデニムをはいて足元はボリュームのある靴。アンバランスでアバンギャルドな靴が好きでしたが、クラシックな英国靴も好きだったと思います。初めてロンドンで買った靴はロークのタッセルローファーだったかな。それこそイアンのファットシューズやホグトゥシューズ、ジョン・ムーアのヴァンプシューズや、木村大太のビッグフットなんかも僕のなかでは原点になると思います。


ボリュームのある靴が好きだったのは時代かもしれませんが、ダブルモンクのアッパーに、クリーパーズと呼ばれる厚底のラバーソールは、いまも<キッズ ラブ ゲイト>のアイコン的存在です。だからといって90年代ロンドンの焼き直しをやっているつもりはありません。あくまでいまの時代のバランス感も重視していますし。造形だけの靴ではなくスタイルとして、ファッションとして成立しているものを作りたい。ジョン・ムーアのDNAを継ぐものとしては、将来的にも残るようなオリジナリティある靴を生み出したい。「ハウス オブ ビューティ アンド カルチャー」で染み付いたモノ作りの感覚は、これから先も引き継いでいきたいですね。もっともっと極端で攻めたものも作っていきたいと思っています。ビジネスというベースは必要ですが、面白いことを探しまわる感性はロンドン時代から何も変わっていないつもりです。


伊勢丹新宿店メンズ館「JAPAN 靴博 2015」に出展

今回、靴博に参加することになり、最初に思いついたのが日本の技法をどう取り入れるかということでした。そこで思いついたのが鹿革を漆で加工した印傳を使うこと。以前、印傳のスリッパを作ったことがあったんです。奈良県のタンナーさんから取り寄せた印傳は、革自体が貴重な品ですから大量生産には向きません。漆のパターンもオリジナルで引いてもらっています。ソールはもちろん厚底で、このバランスが僕らしいかな、と。「こうあるべき」というものを壊したときに生まれるクリエーションのパワーが漲っていると思いませんか。



山本 真太郎
1974年生まれ。1990年に渡英。オールドキュリオシティショップでシューズデザイナー、イアン・リード、木村大太のアシスタントを勤め、2000年に帰国。OEM靴の企画製造・営業会社を経て、2008年、自身のブランド<KIDS LOVE GAITE/キッズ ラブ ゲイト>をスタートさせた。

Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Okada Natsuko

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