2015.10.29 update

〈ジョン ローレンス サリバン〉デザイナー柳川荒士|クリエーションの背景にあるのは"挑戦し続けた過去の経験"

人々を魅了する、モノに込められた思い。ブランドが誕生し、成長するに至った道程。“可能な限りそのブランドのクリエーターの言葉で語ってもらいたい”という思いでスタートした「Creators VOICE」 。普段見られないクリエーターの素顔を見つめることでデザインを通して創られる五感で感じる“豊かさ”の理由について考えたいと思います。


6回目の今回は、元・プロボクサーという異色の経歴を持つ、<ジョン ローレンス サリバン>のデザイナー・柳川荒士さん。選手引退後、ブランドを設立となる2003年から今までを振り返る。


――引退後にリフレッシュで訪れたロンドン。それがすべてのきっかけでした。

「約1ヵ月の滞在期間中、遊び感覚ではじめたのが古着の買い付け。買い付けと言っても次の渡航費を稼ぐくらいのもので、ビジネスとして成立させる気なんてさらさらなくて…。何度かイギリスを訪れるなかで、現地の工場でライダースジャケットを製作して日本にいる知り合いのお店で販売したり。そういった経験のなかで自然とブランド設立への思いが湧いてきて、2003年に本格的に<ジョンローレンスサリバン>としての活動をスタートさせました。

デビュー作のことは今でもよく覚えています。試行錯誤しながら作った切りっぱなしのテーラードジャケットは、当時、展示会というシステムをよく分かっていなかったので、また知り合いのお店に持ち込んで手売りをしていたんです(笑)。そういったことを背景にしながら、徐々に型数が増え、形作られていったのが、今の<ジョン ローレンス サリバン>に通じるモード感と、美しさと、オーセンティックな男性像。その絶妙なバランスがウチらしさで他にはないという自負があります。デビューから10年以上、継続してやってこられたのも、そんなブランドの"色"があったから」

とデビュー当時を振り返る。


ブランドとして成長していく中で、その多くを培ったという東京コレクションへの参加。

「当時を振り返ると、好き勝手やって、突っ走っていたという感じ。ファッション業界で当たり前とされる物作りのプロセスを踏まず、実験的なことも多かった。無駄なこともあったかもしれない。ただ、乗り切ることができたのは、コレクションという発表の場であったり、そのプロセスがボクシングとよく似ていたからかもしれません。本番までの準備期間が長く、1ヵ月前から追い込んで…。いざ始まってしまうとあっという間に終わってしまう。はかないんだけど、終わった瞬間に次がすぐに始まる。それに耐えうるメンタルは過去の経験から培われたものかもしれません」


「東京コレクションでは計8シーズン。その経験があったからこそ、今の物作りができていると思います。そこで、ある程度やりきったという気持ちと、徐々に商業的ではないステージで挑戦したいという思いが重なり、発表の場をパリに移すことにしました。

パリでの7シーズンを経て感じていることは、デビュー当時に比べると、素材の特性をよく考え、適材適所で判断し、1つ1つに時間をかけて物作りをするようになりました。必要があれば素材開発を行い、最終的にその素材がブランドの世界観にハマるか、エッジが立つキーピースになるかを冷静に考えるようになりました。例えその素材やデザインが挑戦的で、面白かったとしても、ブランドとしてあまりに唐突であれば世に出さない。そういったジャッジも重視しています。

"東京"という時代の移り変わりが早い場所で、その時代に擦り合せつつも、あくまで第一は"ブランドの世界観"という考えは大事にしています」


スタンダードなものが時代とされるなかで、機能美が際立つ〈ジョン ローレンス サリバン〉の今季のコレクション。

「ボンディングを多用したり、素材の重なり合いが特徴です。決して闇雲に発想したデザインではなく、昔のライダースジャケットに見られるアクションプリーツなど、オーセンティックなものから発想を得た、機能的なデザインばかり。昔からのパブリックイメージで、ウチの服は細くてカッティングが固いという印象があるかもしれませんが、ここ5年くらいはリラックスして着られるものも多くなりました。肩まわりのディテールひとつとっても、パットを10種類ほど用意して、そのなかで今季はどれが相応しいかスタッフと話しながら進めて毎シーズンの気分にあったものを作っています」


「さまざまな評価を受けていますが、僕たちとしては、もっともっと30代に響く服を作っていきたい。長い目で見ると、それは乗り越えていかなきゃいけない壁だと感じています。次はどの地でインスタレーションやショーをやるか分からないけど、また海外で発表したい。常に挑戦的な精神を持ち続けることが、ウチらしさだと思うから。

次のムーブメントが来た時に自分たちがどんな準備ができているのか、それが勝負だと思います。2008年からイセタンメンズでの取扱いがスタートしていますが、イセタンメンズは我々の世界観をダイレクトに表現してくれる場所のひとつ。取り扱われるコーナーはエッジが効いた海外ブランドと同じ並び。こらからも、その期待に応えていきたいです」

Text:Miyata Keiichiro
Photo:Yamamoto Ayumi

柳川荒士

 <JOHN LAWRENCE SULLIVAN>デザイナー。2003年<JOHN LAWRENCE SULLIVAN>を設立し、テーラードを軸としたメンズウェアを展開。強さとエレガントさを持ち合わせた男性像を基本的コンセプトとしている。また、2010年SSシーズンよりレディースラインも展開しており、メンズテーラードの技術を駆使したシャープな印象が特徴的である。


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