服屋としての「天賦の才」


「ドッピアアー」とは「2つのA」。アレンとアルベルト、2人の頭文字を意味している。アレンは今もブレシアに住み、ミラノ市内にオフィスを構える。アルベルト・カレーラスは、スペイン・バルセロナ在住だ。2人のオフィスはSkypeでつながれている。


アルベルト「アレンが生産を管理し、それ意外のすべての面を私が統括しています。距離はありますが、仕事をするうえで不便はありません。生産部門は彼を全面的に信頼していますし、大抵の事務的な作業はSkypeとメールで済みます。それにどうしてもミラノに行かなくてはならないときは、バルセロナから飛行機で1時間15分。ブレシアからミラノのオフィスまでクルマで通うアレンの通勤時間と同じなのですから」。

聞けばアルベルトはマーケティングとコミュニケーションのプロフェッショナル。スイスの高級宝飾ブランドでMDを勤めていたという。グローバルなブランド戦略を熟知し、幅広い人脈をもつアルベルトと、最高級の服を紡ぐアレンが手を組んだ「ドッピアアー」は2016年春、ローンチされた。

アルベルト「コレクションテーマは、オールジェネレーションのためのリアルストーリー。20代から70代までのすべての男女が、仕事・遊びの両方で着られる服を目指しています。私の父や母、私と妻、そして子どもたちまでが着られるラグジュアリーブランドなのです」。

「カレーラス」の名に覚えがあるだろう。彼の父は3大テノールの1人、ホセ・カレーラスなのだ。スペインの偉大なる歌手とイタリアのファッショニスタは以前から家族ぐるみの付き合いである。彼らの家族像を映し出す服こそ「ドッピアアー」に他ならない。スペインとイタリア、国は違えど上質を知るセレブリティファミリーである。


アルベルト「父の講演がミラノであるときは皆で食事をすることもありましたよ。父も私もアドリアーノ&サンズのセレクトが好きでしたし、アレンの作る服のファンでもありました。アレンから新しいブランドを立ち上げたいと相談を受けたとき、それまで私はファッション・ビジネスに携わったことはありませんが、それまでの職を辞して彼と組むことを決めたのです」。

偉大なる父を持つアルベルトに、音楽家への道を歩まなかったのか?と不躾な質問を投げかけてみた。

「子供の頃から音楽の英才教育を受けさせられましたが、私は早い段階で諦めました。父は音楽の神に愛されて生まれてきましたが、私はそうではなかった。努力だけでは届かない場所があるのです。才能は天賦のものですから。彼のようにね」。

そう言って、アルベルトはアレンに目を遣る。アレンの2人の弟は、ロンドンでビジネスマンをしている。妹はマイアミで建築家として活躍中だ。

Text:Ikeda Yasuyuki
Photo:Ozawa Tatsuya

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