彫金の常識がない。下書きもしないし、デザインも描かない

高蝶氏は21歳で仕事を始め、22歳にシルバーアクセサリーを仕入れて販売するショップをオープン。24歳のときに、「LEATHER・SILVER・DESIGN」をマテリアルとしたブランドとして頭文字をとった<LSD>をスタートします。

「最初はお店がやりたくて始めて、当然、修理やオリジナルデザインの相談なども受けて対応していたのですが、自分のブランドがやりたくなって、デザイン画を描いて、原型師に頼んだりしました。でも自分の思う通りに出来上がってこないし、時間もかかるので、それなら自分でやろうと、何も解らないまま始めました」


そこで、最初にやってみたいと目をつけたのが、「平面に模様を彫るだけのインディアンジュエリー。金属に模様を彫る鏨(たがね)で唐草模様を彫れるようになって、もっと深く彫ってみたらどうなるだろうと、ドリル刃で更に深く彫りこんだら、唐草模様に立体感が出た」

そして、「ジュエリーの原型は、通常ワックスに彫ることを知った頃には、直接金属に彫れるようになっていました」と笑います。

そこから荒唐無稽のジュエリー製作に没頭していきますが、「金属の板から始めたので、二次元的な考え方が捨てきれず、立体(3D)にするのに苦労しました」と振り返ります。「たとえばスカルを彫るときに、頭の中で3Dにしていくのに、手が追い付いていかない。手の中に球体を生み出して、それを回転させる様に彫れるかが、10年ぐらい前まで大きな課題でした」。その解決法を聞くと、「それは、やり続けていれば誰でも出来る」と答えます。


アメリカや日本を旅しながら感じる空気からの影響

高蝶氏のクリエーションに影響を与えるものを尋ねると、「自分はアメリカや日本国内をよく一人旅していて、この前も車でダラスからサンフランシスコまでの8000キロを一週間、旅しました。旅をしながら製作をし、ゴーストタウンや廃墟で撮影もします。そうした旅から感じる空気の影響はありますね」と言います。

「20代の頃は、先達が生み出したジュエリーや、LAブランドの影響が大きく、ああいうものを自分もやってみたいと、憧れに挑戦する意識が強かったですが、30代になってそういう意識が薄れて、今はたとえば70年代のメキシコのシルバージュエリーの“ヘタウマ”さを自分ならどう表現するか?みたいな事に興味があります」

「自分の身体が保つ限り、好きなことをやっていく」という高蝶氏。「創るモノに対して、無理して変化を抑えるのは嫌いですね。自分の中に生まれた変化には逆らいたくない。変化に合わせて技術を身につけていくことが大事だと思っています」


左/「LOUDER」 74,520円、右/「UNFORGIVEN」 51,840円

今回のポップアップでは、<LSD>3rd Styleなどを中心に展開

高蝶氏は1年ほど前に、ファッションブランド<ANOTHER HEAVEN>のデザイナーで、友人であるLA在住の日本人アーティスト“KOMY(コミー)”氏と、「クリエーターが集まってモノを創り、発信できる場所」となる「FAKTORY」をLAに創設。

「今回のメンズ館でのポップアップでは、<LSD>の3rd Style ‒GET IN THE RING‒の新作を始め、FAKTORYで自分らがやっているスタイルのアートワーク、作品なども展開します」 メンズ館の印象を聞くと、「メンズ館立ち上げの頃から取り扱ってもらっていますが、良くも悪くも当時とは変わったなという印象が強いです。ファッションを扱うので、トレンドによって様変わりするのは当然だし、お客様のニーズに応えるというのも良い変化だと思いますが、自分はトレンドを追う感じの、時代と寝るクリエーションは目指していないので」


男がシルバージュエリーに惹かれる理由

「独自の解釈になってしまいますが、ファッション的な視点から言えば、金属が持つ独特の色気をプラスしたいということですね。基本、肉体の表面には金属は備わっていないので、金属の色気を身につけたいという欲求。それと、男性は、子どもを産むことができる女性と違ったカタチで“痕跡(リメイン)”を残したがります。傷がつきやすく、色が変わっていくシルバーは、身につけることで、自分の軌跡を乗せていける、“外部記憶”にシルバーが適しています。」

最後に、「メンズ館には、今のトレンドや良いモノがたくさん揃っていますが、。トレンドとは一線を画すジュエリー<LSD>が、メンズ館に来られるお客さんにいいものに映るかどうか、ぜひご覧ください」と高蝶氏からのメッセージです。

高蝶智樹
1976年生まれ。1999年にクリエーターとしての創作の場としてREFUSEを設立し、シルバーアクセサリーを中心に「Loud Style Design」「BEAST HATE」など、多くのブランドを展開。近年はアメリカのタトゥーコンベンションをツアーしながら会場で彫金の実演を行うなど、金属を直接加工することで創り出される造形のダイナミズムを活かしたクリエーションを行う。また、小栗 旬主演映画『クローズZERO』シリーズのすべてのアクセサリースタイリングを担当して話題となる。彫金師としての活動を軸に世界を旅し続けている。

<ラウド スタイル デザイン>ポップアップ
□10月26日(水)~11月1日(火)
□メンズ館2階=インターナショナル クリエーターズ


*価格はすべて、税込です。

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メンズ館2階=インターナショナル クリエーターズ
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