アンナ・マトゥッツオ×バイヤー 佐藤巧

ビスポークという古き良き文化が再び脚光を浴びている。先頭をひた走る、つくり手と売り手がその魅力を語る。


アンナ・マトゥッツオと三越伊勢丹バイヤー佐藤巧

1952年イタリア・ナポリ生まれ。9歳の時にシャツづくりを学びはじめる。ロンドンハウスで働いた後、90年代に会社兼アトリエをViale Gramsci 26に構える。

既製のシャツとは異なる第2の皮膚としてのス・ミズーラ

ひとたびドレスシャツをオーダーしてしまうと、既製のシャツには戻れない、と言っては言い過ぎだろうか。否。人間の体は、想像している以上に丸みを帯びていて、しかも左右対称ではないのだから。ナポリを代表するドレスシャツメーカーとしてシャツ好きの間では知らない人はいない、といわれるアンナ・マトゥッツオ女史に、ナポリで話をうかがった。

──まず、一般論として、既製シャツとオーダーシャツの違いはあるのでしょうか。

マトゥッツオ ス・ミズーラ、すなわちオーダーシャツは着る人、一人ひとりに対し第2の肌として、個々の体の特徴に合わせ、型紙から製作していきます。一方既製シャツは、できあがったシャツそのもの。シャツに体を合わせなければなりません。また、フィッティングだけではなく、フィニッシングに関しても、ステッチングなどいくつかの工程はハンドメイドで作成しているところも違います。
佐藤 <アンナ・マトゥッツオ>のシャツでいうと、どれくらいの差がありますか?
マトゥッツオ 一般的な既製シャツでは、3~4カ所のハンドメイドの工程ですが、<アンナ・マトゥッツオ>のス・ミズーラは、13カ所です。
佐藤 その差が着心地に違いを生むのですね。
マトゥッツオ そのとおりです。
佐藤 ス・ミズーラでシャツをつくる場合、どこに重きをおいていますか?
マトゥッツオ カッティングです。お客さまの体形に合わせ、形をつくっていくために重要な工程といえます。2回目以降に型紙がいかせるよう、お客さまの型紙は保管しております。

<アンナ・マトゥッツオ>のアトリエでは、アンナ女史を含め、3人の娘、従業員3人の計7人が働いている。


──オーダーをするお客さまにとって、気をつけるポイントはありますか?

マトゥッツオ シャツをオーダーするにあたって、お客さまにはどのようなシャツがほしいか希望があると思います。たとえば、「こういったスーツやジャケットのインナーとして着る一枚を探している」などといったリクエストをおっしゃっていただくことが大切です。通常つくり手は、自分たちの商品を知り尽くしているので、最適な一枚をアドバイスできると思います。
佐藤 合わせてたいスーツなどを着て来店していただけると、つくり手、またオーダーの受け手としてもイメージしやすいですよね。もし、お客さまが初めてだったり、あまりシャツのことを知らない場合は、どのようにしたらよいでしょうか?
マトゥッツオ なにもしていただく必要はありませんよ。私たちは絶対的な自信がありますので、ついてきてくだされば、ご満足いただける一枚をおつくりします。
佐藤 それは心強い言葉ですね。


<アンナ・マトゥッツオ>のシャツには、職人の手作業が随所に光る。こちらは袖付けをハンドソーンでおこなっている様子。袖の縫い目とサイドシームが十字ではなく、ずれているのは、袖を後付にしている証である。


──<アンナ・マトゥッツオ>のシャツが、ほかのブランドとは違う点を教えてください。

マトゥッツオ カッティングと柔らかさです。カッティングはもちろん、シャツの柔らかさ、生地のセレクションには自信をもっています。私たちがセレクトした生地から選んでいただければ、それは世界でもっともよい生地であると信じています。また、カフのギャザーも特徴的です。このディテイル、日本人は好みますが、ナポリの男性は好みません。不思議ですね…。
佐藤 <アンナ・マトゥッツオ>のシャツのハウス(典型的なカット)を教えてください。
マトゥッツオ 「これ」と特定の形で選ぶのは難しいですね。通常、お客さまのお好みのボディ(フィット)を選んでいただき、それをモディファイしていきます。「カプリ」というエクスクルーシブの襟型があるのですが、それがとても好評です。ステッチや生地の剥ぎの少ないワンピースカラーのシャツです。また伊勢丹と一緒に復刻したロンドンハウス時代のいわゆる"ルビナッチ"モデルもあります。背中のダーツが片側2本ずつあり、衿の羽が大きめのクラシックモデルです。
佐藤 仮に、お客さまが<アンナ・マトゥッツオ>のスタイルとまったく違うものを希望した場合、どう対応しますか?
マトゥッツオ 非常に難しい問題ですね。でも、もし私がその型を気に入ったら了承しますよ。反対に、もし気に入らなかったら了承しませんけどね。最終的には、我々が提案しているスタイルから希望に近いものを気に入ることになるでしょう。

──最後に、男性にとってのドレスシャツとは何でしょうか?

マトゥッツオ ファーストインプレッションのインパクトとしては、もっとも重要なアイテムかと思います。きちんと体に合ったサイズで上質なシャツを着ることは重要です。結婚式のように特別なオケージョンのためのシャツを仕立てにくる方もよくお見えになります。つまり、それだけシャツは重要なアイテムとして認知されています。だから、イタリアではスモーキングスーツ(タキシード)だけではなく、シャツにも気をつかい、体にジャストフィットするス・ミズーラで仕立てる方が多いのです。


*価格はすべて、税込です。

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