【インタビュー】ジャポニスムの再来──京都祇園の老舗履物匠「ない藤」が手がける"新感覚"サンダル<JOJO/ジョジョ>
日本で誕生した草履がビーチサンダルに名を変え、世界を席巻してはや半世紀。しかし創業1875年の和装履物の老舗、ない藤の五代目をつとめる内藤誠治にとってその姿はとても寂しく映るものだった。
それは姿だけの問題ではない。薄いラバーのビーチサンダルは地面からの衝撃がそのまま膝や腰に伝わってしまう。ひるがえって、草履はダメージを和らげるのみならず、指又に力を入れ、足を挟み、台を踏ん張ることで土踏まずの形成や外反母趾の予防にもなるとその効用が見直されている。
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ビーチサンダルにあらためて日本のエッセンスを注入する──そうして完成にこぎつけた<JOJO>は草履の構造をベースに、ソールにタイヤの素材として知られるSBR、芯材にEVA、インソールに水に強く、曲げ割れにも耐えるパワフルコルクというコルクの新素材、鼻緒まわりに哺乳瓶の乳首につかわれるゴムなどを採用した。
耐摩耗性があり、弾力性があり、足を優しく包み込む。現代のマテリアルを駆使した<JOJO>はマテリアルの力なのか、もともと草履がそなえていたものなのか判然としないけれど、じつにクリーンでモダンだった。
ニッポニスタ(日本の文化を発信すべくニューヨークにオープンしたポップアップストア)でお披露目した伊勢丹ではこの夏、本格的に取り扱いを開始する。6月28日(水)からのトランクショーでは、ない藤の変遷を凝縮したような一足も登場する。
燃えかすを化石燃料に
「和装履物は右肩下がりの業界です。わたしが生まれたときにはすでに」と語る内藤は家業入りしてからずっと、なにかしら手を打たなければならないと悶々としてきた。日本には2000年の伝統があり、ない藤には草履と下駄があった。これにあらたな価値を与えることができれば、活路が見出せるのではないか。そう考えていた内藤は<メゾン マルジェラ>が足袋にヒントを得たコレクション、その名もタビの存在を知って地団駄を踏んだ。日本人ならまだしも、ヨーロッパのデザイナーに先を越されたのだから悔しさもひとしおだった。
それにしても先代がよく許したものだ。失敗すればない藤の名を汚すだろうし、成功すれば成功したで屋台骨を揺るがすことにもなりかねない。そう水を向けたら、父はわたしが38歳のときに亡くなりました。あと3年遅かったら、きっと家を飛び出していたでしょうと笑う。
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「ほかにやれることがないから手伝うようになるでしょ。大方予想はつくでしょうが、ま、ひどいもんでした 。つづけてこられたのは丁度よいぐらいのアホだったから。跡継ぎはあんまり賢すぎると大変です(笑)」
憎まれ口を叩く内藤だが、もちろん本心ではない。いわゆる照れ隠しだ。
「わたしは先代の燃えかすで生きているようなもんです。でももうちょっとがんばれば、化石燃料になる。そうすれば子どもたちもやっていけるかも知れない」
燃えかすは、内藤家が脈々と受け継いできたものがあったから<JOJO>が生まれたという感謝の気持ちがいわせた謙遜である。草履から採った設計思想だけをいっているのではない。アフターケアの態勢もそうだ。<JOJO>はソールはじめ、すべての部材が交換、修理できる。直してつかうという日本の古き良き美徳を先代に徹底して叩き込まれたない藤のなかでは、ごく自然な取り組みだった。
内藤は第二、第三の<JOJO>を目論んでおり、この試みをMANA PROJECTと名づけた。MANAは太平洋の島々で信じられてきた超自然力のことで、その力が宿れば望ましい作用をもたらすとされた。伝統を生まれ変わらせる試みにふさわしいネーミングだが、もしかしたら後づけの理由かも知れない。じつはお子さんの名前ではとカマをかけると、目の前のコワモテは照れ臭そうにうなずいた。
ネーミングといえばブランド名もふるっている。答えを教えられて、はたと膝を打ったが、造語かなにかかと思った<JOJO>はだれもが口ずさんだ日本の童謡にすでに存在したのだ。
はるよこい はやくこい あるきはじめた みいちゃんが あかいはなおの “じょじょ”はいて♩
”じょじょ”は江戸のころからつかわれていた草履を意味する幼児語。まさに歩きはじめたばかりのこのブランドがどのように育っていくのか。”みいちゃん”とともに見守るとしよう。
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Text:Takegawa Kei
Photo:Okada Natsuko
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