2016.07.03 update

【イベントリポート】中野香織×綿谷 寛×バー「ル・パラン」|「21世紀に生きる日本の紳士」を語り、描き、飲む(後編)

「女性は“少年の心を持った男性”が好きってよく言うけど、結婚すると“もっと大人になりなさいよ”って言うよね」と笑いながら絵筆を手にする綿谷 寛さん。トークショーを楽しんでいる女性の一人は、「私が思う紳士は、忙しくても忙しいと言わず、時間を作っていろんなことをやってくれる人。自分のペースで時間が流れているような男性は素敵ですね」と語ってくれました。さて、中野香織さんが大好きな俳優に似せた顔に、トークショーで話題になったシチュエーションを加えて完成した綿谷さんの絵がお披露目です!


時代が変われば、ジェントルマン階級は変わる


中野香織 綿谷さんと本多さんはどんな紳士像をお持ちですか?
綿谷 寛 女優の加賀まりこさんはインタビューで、好きな男性のタイプを「野心のない男」と言っていたのを今でも覚えている。男についてこういうことはなかなか言えないよね。彼女は成功している男たちと付き合ってきたから言えるんだろうね。
中野 加賀まりこさんのように恋愛上手な方は、いつも男性より上にいてうまく主導権を握っていますね。日本の女性はつい男性に尽くしちゃって、せっかくの関係をダメにすることもありますね。女子学生から受ける恋愛相談は、そんなのばっかりです(笑)。女性が、男性に自分を追わせることを上手にできれば、魅力的な紳士がもっと増えるのではないかしら。
本多啓彰 やりすぎたり、決めすぎたりする男性は紳士ではないですね。紳士で思い出すのは、ロンドンの社交界でボー・ブランメルが、シルクハット、手袋、ステッキをいかに優雅に預けるかを競い合ったという話があって、紳士らしさとは、そういうことが流れるように自然体で意識せずできることかなと思います。
中野 イギリス史でいうジェントルマンは、もともと支配階級に位置する社会階級で、時代が変わればジェントルマン階級もそれにふさわしいジェントルマン像も変わります。21世紀の支配階級には、会議にもジーンズを穿いたり、「俺、ジェントルマンじゃないから」なんて言ったりするIT業界の方も増えていますね。そんな時代の影響を受けて、ジェントルマン像も変化しています。私が思う紳士とは、世間や他人に流されずに、自分の人生をコントロールして、自分を取り巻く世界を支配している人、でしょうか。


ウイスキーを飲みながら、装いから見た現代の紳士像


中野 さて、話を変えて、装いから見た現代を代表する紳士を何人かご紹介します。まず伝統的な紳士から。先日90歳の誕生日を祝われたエリザベス女王のご主人、エディンバラ公ですね。今年で95歳になられて夫婦円満ですが、抑制が効いて60年間変わらない彼の装いは、まさに紳士スタイルの王道です。次は、チャールズ皇太子です。華やかな胸元に特徴がある彼のダブルのスーツスタイルは、30年間ほぼ変わりません。30年前は変人扱いされたこともありましたが、今は時代が追いついてきて、英GQなどでベストドレストマンに選ばれています。彼を“プリンス・オブ・サスティナビリティ”と呼んでいるんですが、ジョンロブの靴をつぎはぎして履いていたりするほか、古くからあるものを大切にしています。
本多 ここでチャールズ皇太子から御用達をいただいているスコッチウイスキー「ラフロイグ」をお出しします。独特の香りが立ちやすいように、水とウイスキーを1対1で割っています。クセが強いアイラモルトの王様です。
中野 飲めない方はぜひ香りだけでも愉しんでください。「ラフロイグ」は15年物だけ御用達マークがラベルについていないんです。理由をご存知ですか。チャールズ皇太子は、自分が飲む酒に自分のマークがついているのがイヤなんだそうです。そういう気恥ずかしさの表現も、紳士的な資質の一つかなと思います。


ジェントルマンとダンディの違いとは


中野 次に、モダンジェントルマン、ひねりを効かせたジェントルマン像をつくっているデザイナーをご紹介します。まずは昨年、このチャーリーのサロンでトークショーも行ったジェレミー・ハケット。彼は古着収集家で、“ミスタークラシック”と呼ばれています。クラシックな英国紳士の装いをベースに、ボタンや裏地にひねりを加えて、現代風にアレンジすることで人気を博しています。彼に装いの肝を尋ねると、「ことさらに目立たない、気づかれないこと(Unnoticed)」と答えました。ポール・スミスもひねりのあるクラシックスタイルを生み出すのが得意ですね。「階級なき社会」におけるポップな紳士像を、やはりクラシックをベースに生み出しています。彼のユニークな世界観とクリエイションが楽しめる京都国立近代美術館での展覧会「HELLO MY NAME IS PAUL SMITH」のオープニングに伺ってきましたが、7月27日(水)からは東京でも開催されます。その後は名古屋で。今年はポール・スミス・イヤーですね。
綿谷 よくジェントルマンとダンディって使うけど、実際はどう違うの?


中野 “ダンディ”は日本では褒め言葉になっていますが、イギリスでは“ダンディ(↑)”と語尾を上げて発音して、「ナルシストが入っている人」と、やや否定的なニュアンスでとられます。おしゃれな人を褒めるときは“ウエルドレッサー”と言いますね。
綿谷 ナルシストといえば、ピッティの会場にスナップ目当てのおしゃれした男たちがたくさんいるよね。
中野 イギリスのダンディの美学に対して、イタリアの美学には“Sprezzatura(スプレッツァトゥーラ)”がありますね。ルネサンス時代から継承される、マナーに近い美学ですが、いかに自然で良いポーズで撮られるかを考え抜く、「演出された無頓着」ですね。
綿谷 足元は素足だしね(笑)。さて、絵が出来上がりました。
中野 会場の話題を拾いながら、短い時間で「21世紀の日本の紳士」のイラストを完成させていただきました。難しいことをお願いしてすみませんでした。ご来場の皆さまもぜひ画伯の絵と一緒に写真をお撮りください。本日はありがとうございました。


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