現代のシルクロード 


家業を継ぐのはごく自然なことだったという。「父は量産メーカーの時代にも、手作りの自社ブランドを作っておりました。そして私にも迷いはありませんでした。シルクとともに育ちましたからね。学校を出ると帽子屋で修業し、兵役を終えるとそのまま手伝うように。以来タイ一筋。思いがぶれたことはありません」タイに取り憑かれてしまった男の血管にはいくらかシルクが溶け込んでいるに違いない。それは取材ノートに書きつけたいくつものコメントに明らかだ。


――タイはかならずしも必要なものではありません。カジュアル化が進むいまなら、なおさら。しかしタイほどその日の気分やパーソナリティを伝える服飾品はほかにはないでしょう。タイは男にとってシンボリックな存在なのです。
――わたしのワードローブには常時30〜40本のタイがあります。職業柄、シーズン毎に入れ替えますが、たとえばサテンの無地やガーゼ織りのセッテピエゲなどそれぞれのセクションで不動の一本というものがあります(笑)
――女性にはどれも一緒にみえるかも知れないが、それは大きな間違いだと声を大にしていいたい(笑)。同じようにみえて、まったくの別物なのです。
――ラグジュアリーブランドにもタイのコレクションはありますが、朝起きてから夜寝るまでタイのことを考えているのはわたしたちだけです。



<ステファノビジ>を語るときに忘れてはならないのが、洗練された佇まいだ。

そのタイは生地選びからデザインにいたるまで3代目と実姉のパオラが積み上げていく。生地はイタリアのシルクの産地、コモやイングランドの老舗ミルから厳選している。デザインワークでは多種多様な人々が交錯する空港がインスピレーションの源になっていると3代目はいう。たしかに上質な素材とワールドワイドな感性が洗練につながるのは間違いないだろうが、もっと深い部分があるように思われる。


「わたしは若いころから世界を旅してきました。モチベーションにアルティジャーノの素晴らしさを伝えたいというのはもちろんありましたが、旅ができるのも大きかった(笑)。とくに愛したのは中国、インド、そして日本でした。そんなわけで、ミニマリズムなど東洋の精神もなんらか作用しているのではないでしょうか。じつはわたしの奥さんは伊勢丹のすぐ近く、弁天町の出身なんですよ」

<ステファノビジ>はアジアとヨーロッパを結んだ交易路、シルクロードそのものなのだ。
そうそう、ピッティをテーマにした伊勢丹のイベントで祖父の写真が飾られましてね。その話をしたら、80歳を過ぎた母がそれは喜んでくれましたと破顔した。


Text:Takegawa Kei
Photo:Ozawa Tatsuya

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